再びノーヴェンバー・ステップスに戻ろう。
1の段、2の段 琵琶と尺八がオケの序奏に続いて登場する部分である。 手書きで申し訳ないが、その部分は次のようなものである。 これがオーケストラの序奏部を二人の独奏者によって要約してくり返されているようなものととらえることができる。 そして主題のソロによる提示をこの部分は兼ねていると私は考えている。 オーケストラには微分音の使用はなく、ここで東洋的な慣用句としての微分音が初めて使われる。 また、リズムの指定がなく、二人の即興的なやりとりで出来ているが、この部分を聞いていて私は遠くブラームスのドッペル・コンチェルトのソロの入りを思い出させる。もちろん2つの楽器のダイアローグという以上の共通点はないのだが…。 即興的なやりとりはところどころに合わせるポイントが書かれているだけで、それもかなり自由に鶴田錦史と横山勝也氏はやっているが、これをオケに置き換えたものが序奏であったことに気がつく。 尺八という管楽器と、減衰音の琵琶という撥絃楽器の組み合わせが、メロディーを持続音、ロングトーンを中心とした歌とそれの合いの手としての減衰音などの細かな動きがフィル・インをすれる…。 この曲がソロとオーケストラが同じコンセプトの元に書かれていることに思い至るのである。 それが次の2の段でオーケストラが入ってきても変わらない。2つのアンサンブルの一方が薄い影がくっついていくように書かれていて、これがとても興味深いところだ。 譜例はFinaleで書くのが大変なので割愛させていただくが、ソン・カリグラフィなどの作品での弦楽の書法にちょっと似ているような気がする。 第3の段から第4の段 第3の段(を武満の言うとおり練習番号で分割して考えるとすれば)たった一小節しかない。続く第4の段も3小節だけということになる。 ただ、琵琶と尺八にオケが短い音で合いの手を入れるだけなので、実際にはもう少し長い時間がかかるのだけれど、合いの手が細かな三連符などでずれるように書かれていて、琵琶の合いの手がオケに映されたもののようにも思われる。 続く第5の段で極めて特徴的な和音が金管に現れる。 これは後に武満 徹のトレードマークともなった和声で、五音音階の全てを鳴らした形である。ポピュラー音楽では69の和音として知られるが、それとはちょっと用法が異なる。ただ、こうした和音が鳴り響くことで、半音階による西洋的なクラスターの響きと調性的、全音階的(ダイアトニック的)な響きとの鋭い対比が描かれるのである。 この東洋的な世界と西洋的な世界の融和、あるいは調和をこの作品の中で武満は求めたのではない。むしろ逆である。すなわち、東洋的な響きと西洋的な響きの対立、対比を際だたせる中で、その緊張感の中に新たな協奏を作りだそうとしたのではないか? 6の段は再びソロだけのダイアローグ。まずは尺八のソロ。そして長い休符(フェルマータが付いている)の後、琵琶のリズム的な反復に尺八のロングトーンが続く。 第1の段に比べてダイアローグというより、ダイナミックで直線的な対話となっていている。 この話題、更に更に続く予定…
by Schweizer_Musik
| 2008-11-10 11:56
| 授業のための覚え書き
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