アメリンクの歌うハイドンの歌曲集を聞く
作曲者 : HAYDN, Franz Joseph 1732-1809 オーストリア
曲名  : おお美しい声よ "O Tuneful Voice" Hob.XXVIa-42 (1795) (A.ハンター詩)
演奏者 : エリー・アメリンク(sop), イェルク・デムズ(pf)
CD番号 : PHILIPS/35CD-622(420 217-2)

ハイドンの歌曲なんて…とお思いであれば、ぜひ一度この曲を聞いて欲しいと思う。作曲家には鬼門となるジャンルがあるようで、ブラームスの歌劇のように、本人は演劇が大好きなのに、良い台本に出会えず書く機会を逸したまま人生を終える人もいるほどだ。
ハイドンにたくさんの歌劇があり、生前は歌劇作家としても名高い存在だったほどだから、ハイドンが声楽を知り尽くしていることは了解しておかなくてはならない。そしてその彼が円熟を迎えていた時代に書き残した珠玉の歌曲がこの作品なのだ。
別れた女性の声(ひょっとすると男性かも知れないが…)を思い出しながら歌うこの歌から聞こえてくるロマンの香りは、モーツァルトのいくつかのカンツォネッタよりもずっとシューベルトの世界に近いことに驚かされる。
1796年に出版された「6つのオリジナル・カンツォネッタ 第2集」には同じハンターの詩による「さすらい人」という歌がある。あのシューベルトのものとはもちろん詩も何もかも違うけれど、その深い憂愁と憧れに満ちた世界は、ロマン派の音楽を予感させる何かがあると思う。特に後半、オペラのアリアのように曲が盛り上がるあたりの伴奏の和音の連打は、まるで「冬の旅」だ。

こうしたあまりCDがない(聞く機会の少ない)作品を、アメリンクのような優れた歌い手によって聞く喜びは筆舌に尽くしがたい。今もこのCDは手にはいるのだろうか?確かLPでは全集であったはずで、まだ大阪の自宅にはこのLPがあったはずだが、何十年ぶりかでこの聞いた。
機会があればぜひ!
by Schweizer_Musik | 2008-11-11 22:14 | CD試聴記
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