バルヒェットが弾くバッハのヴァイオリン・ソナタ ヘ短調
作曲者 : BACH, Johann Sebastian 1685-1750 独
曲名  : ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ ヘ短調 BWV 1018
演奏者 : ラインホルト・バルヒェット(vn),ロベール・ヴェイロン=ラクロワ(cemb)
CD番号 : ERATO/WPCC-3351〜2

今もこれが手にはいるのかは分からないけれど、バルヒェットのこの演奏で聞いた時、不覚にも涙が出てしまった。こんなに深い嘆きがあるのだろうか…。演奏ノイズも大きく、集中しているとチェンバロの演奏ノイズらしき音が盛大に聞こえるけれど…、いつしかそんなことは忘れて音楽に没頭してしまう。
この演奏を聞いて、私にとってバルヒェットはあのアドルフ・ブッシュに匹敵するヴァイオリニストであったと確信するに至ったのである。
LP時代に聞いたのがはじめで、CD時代に入ってなかなか出てこず、ようやく再発に至った時、真っ先にCD屋に走ったものである。売り切れを恐れたのではなく、ただただ早く聞きたい一心だった。
そして、今もってこれが私のバッハのソナタの録音では最高の演奏であり続けている。
第1楽章を聞いて、今日も涙が出そうになった。悲しみが単なる感傷でなく、厳しさと深さに裏付けられた時に本当の普遍的な芸術に昇華するのだ。
長大な第1楽章(なんと9分もかかる!!)の後、Allegroの第2楽章の烈しさは、ベートーヴェンなどとは全く異なるものの、バルヒェットのよく歌うヴァイオリンと反応の良いラクロワのチェンバロの素晴らしい二重奏に心が躍る!!あっという間の三分あまりの後、ヴァイオリンが和音を担当しチェンバロがラインを作るというこの時代としては意表をつく音楽を、二人が鮮やかに演じるのを聞き、終楽章の半音階の幻想的な音楽を味わう。
この曲はヴァイオリンとチェンバロのための小さな受難曲なのだ。あれほど巨大ではないけれど、聞き終えてもう一度アンコールを今機械に命じたところである。朝から少々不健康な音楽ではあるけれど、私は深く深く味わい尽くす心境である。
彼らのバッハの協奏曲を聞いて、この録音を聞くことにしたのだけれど、おかげで充実した土曜の朝となった。
まだ聞いたことがないという人は、このCDをみかけたなら絶対「買い」ですよ!!
by Schweizer_Musik | 2008-11-29 10:10 | CD試聴記
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