1920年に親友のドビュッシーの追憶としてデュカスが書いた「牧神の遥かな嘆き (ドビュッシーを追憶して) "La Plainte au loin du Faune (en memoire de Debussy)"」を聞いてみよう。
もともとはピアノ・ソロとしてデュカスが書いた作品であるが、これをフルートとピアノに編曲した版がある。マリオンが録音していてナクソスのこちらにある。 もちろん、原作のソロもこちらにあるので聞き比べていただければと思うが、ドビュッシーへの追悼を牧神になぞらえて見事に音化している。ドビュッシーの作品の冒頭の半音階をこれほど沈痛な響きに変えることができるものなのかと、私などは驚嘆するしかない。 大体、この半音階の下降は、受難の場面を連想させるものであった。そしてその多くはバスに与えられていたものであった。(バッハの三声のシンフォニアのヘ短調を思い出してほしい) 私はフルートへの編曲で、この作品とドビュッシーの関連がより明確になっていると思うが(特にドビュッシー作品の引用の部分で)フルートでやらなくてはならない理由は見いだせない。 多くの人から惜しまれて亡くなったドビュッシーが、世間を驚かせ、また評価を確立した作品がこの「牧神の午後への前奏曲」だった。 彼はその後、様々に作風を変化させていっている。古典的な形式美へと次第に向かっていく「変化」と、キッチュなものへの親近感とが混ざり合った、なんとも不思議な魅力が彼にはあると思うが、その出発点がこの作品であった。 今朝聞いたのはアンドレ・プレヴィンがロンドン交響楽団を指揮した古い録音であるが、この名作には様々な名演があり、デボストやジェームズ・ゴールウェイなど名だたるフルーティストがこの冒頭のソロで名前を刻んでいる。 プレヴィン盤でのソロは私の所持しているのはiTuneで購入したものなのでわからないのだけれど、多分ペーター・ロイドではないかと想像している。1970年代から1980年代にかけての首席は彼だったと思うので…。 プレヴィンはフランス物も大変上手いけれど、1987年のロス・フィルとの録音では首席のジャネット・ファーガスンの素晴らしいソロで、テラークに録音している。 またピーター・ロイドは、アバドとの録音でもソロを担当しているが、こちらはやや角張ったアバドの指揮に煽られているようで、私の好みではない。しかし当のドビュッシーはこういう演奏が好き゛たったのではないか?とも思うことがある。 先のデュカスのフルート版での「牧神の遥かな嘆き」でのソロを吹いていたアラン・マリオンがソロをとったのはマルティノンの全集であった。長く私のスタンダードとなっていたけれど…。 デュトワ盤のハッチンスや、モントゥー盤でのベネット(多分…未確認です)、あるいは古いアンゲルブレシュト盤でのデュフレーヌなど、名演は枚挙に暇がないが、私の目下のトップはプレヴィン指揮の旧盤である。 なんとしてでもフランスのオケとフランス人の指揮者でないとと言われると、私は答えようがない。デュトワなんかが…などというのもおかしな話で、デュトワはスイス人だし、彼が指揮したオケはカナダのオケである。フランス語を話すという共通点はあるけれど、フランス人でなければという分けのわからない本場主義が、今もって日本の音楽界では根強いのには驚かされる。 それならば日本人が西洋音楽をやること自体に意味がないことになるのだ。 愚かなローカル主義に踊らされてはならない…と私は思うのだが、如何? さぁ、仕事をしなくては…。
by Schweizer_Musik
| 2009-01-04 08:57
| CD試聴記
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