クリュイタンスのもう一つの「田園」
作曲者 : BEETHOVEN, Ludwig van 1770-1827 独
曲名  : 交響曲 第6番 ヘ長調「田園」Op.68 (1807-08)
演奏者 : アンドレ・クリュイタンス指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
CD番号 : TESTAMENT/SBT 1182

今ではDISKYなどでバジェット・ボックスで購入できるクリュイタンスとベルリン・フィルのベートーヴェン交響曲全集であるが、この録音は1955年に録音されたモノラル盤で、フルトヴェングラーが亡くなった翌年のものである。
実はクリュイタンスの全集は「田園」が最も評判が良いのだけれど、私はこの「田園」が一番良くない(比較しての話である)ので、この録音が出た時は嬉しかった。モノラルでなければこれが決定盤になるところだったが…こればかりは仕方がない。
ステレオ盤が残響でデティールが暈けてしまい、プロポーションの良い演奏が台無しになってしまっているのだけれど、このモノラル盤はそういうことが全くない。
ベルリン・フィルはさすがに1960年代から70年代のコンセルトヘボウ管とは比べものにならない位、弦の音色などに魅力がない。これはやむを得なかった事情もあるが、スイスに逃れていたシュヴァルベを口説き落としてコンマスにしたカラヤンなどの努力の末、ベルリン・フィルも良くなって来たわけである。フルトヴェングラー時代のベルリン・フィルはかなり酷い状態であったと言えよう。
でも音は、あきらかにあのフルトヴェングラーのオケなのだ。変わってしまう直前の何かがまだ残っていたのだ。それは第2楽章の冒頭を聞いて強く思った。
オケの伝統だとか色々言う人がいる。確かにそれはある。ティンパニの皮の音や伝統的なオケが持っている楽器を使わせるなどによって音を守っている例もあるが、指揮者やコンマス、パート・リーダーが代わっていく中で、音もアンサンブルもどんどん替わっていくのだ。
これを残念とかいうのも間違っているのだろう。確かに良いものが失われていくのは残念だが、世代交代、人が入れ替わっていくことで、新しい活力も生まれていくのであるから。またそうでないと、若い音楽家たちは永遠に職場を得ることなんてないはずだ。
新しい世代に残さなくてはならないこと、あるいは新しい世代が作り上げていかなくてはならないことをゴッチャにして議論できないのだろう。
この演奏は、サヴァリッシュの演奏で満足できず、ちょっとストレス解消のために聞き始めたのだけれど、2つの有名オケが変わる時代に録音されたものであることを思い、ちょっと面白く感じた次第である。
しかし、この古ぼけた録音(第2楽章のクラリネットなんて私に言わせれば下手!だ。よくこんな演奏でOKを出したものだ…)からも、あの美しい「田園」が聞こえてきて、クリュイタンスの運びの素晴らしさを堪能した。
でも「田園」のサヴァリッシュ…。ちょっとおかしかった。どうしたのだろう?
by Schweizer_Musik | 2009-02-27 12:05 | CD試聴記
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