ブラームス ヴァイオリン協奏曲、女流奏者の聞き比べ
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写真はブラームスが愛したミューレンの村から登ったビルクから見たラウターブルンネン・ブライトホルンなどの山並み。この風景を見てブラームスはカンデルシュテークの谷へと抜けるかなり厳しい峠越えのハイキングなどをしている。
そんな中、チェロ・ソナタ第2番やドッペル・コンチェルトなどが作曲されたのである。
さて、今回聞き比べするのはそのブラームスのヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.77である。聞いたのは以下の演奏である。リンクはナクソス・ミュージック・ライブラリーにある同じ演奏に貼ってあるのでナクソスの会員の方はそのまま聞くことができるようにしてある。

ジネット・ヌヴー(vn), イザイ・ドブロウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽団 (1946年8月16日〜18日録音)
(★★☆)

・ジネット・ヌヴー(vn),ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮北ドイツ放送交響楽団 (1948年5月3日ハンブルク録音)
(★★★★)

・ジョコンダ・デ・ヴィート(vn),ルドルフ・シュヴァルツ指揮フィルハーモニア管弦楽団 (1953年2月25-27日,3月2-5日ロンドン、キングスウェイ・ホール録音)
(★★☆)

・ヨハンナ・マルツィ(vn), パウル・クレツキ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 (1954年2月録音)
(★★★)

・エリカ・モリーニ(vn), アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 (1956年9月9,12,18-23日録音)
(★★★☆)

・ミシェル・オークレール(vn), ウィレム・ヴァン・オッテルロー指揮 ウィーン交響楽団 (1958年9月30日ウィーン録音)
(★★☆)

・スザンネ・ラウテンバッヒャー(vn), ロベルト・ワーグナー指揮 インスブルック交響楽団 (1959年頃?録音)
(★★★★)

・ヨハンナ・マルツィ(vn), ギュンター・ヴァント指揮 シュトゥットガルト放送交響楽団 (1964年録音)
(★★)

・アンネ=ゾフィー・ムター(vn),ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 (1981年9月録音)
(★★★★)

・アンネ=ゾフィー・ムター(vn),クルト・マズア指揮ニューヨーク・フィルハーモニック (1997年7月ニューヨーク録音)
(★★☆)

・キョン=ファ・チョン(vn), サイモン・ラトル指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 (2000年12月18〜20日ライブ録音)
(★★★★★)

カトリーン・ショルツ(vn), ミヒャエル・ザンデルリンク指揮 ベルリン室内管弦楽団 (2006年録音)
(★☆)

ユリア・フィッシャー(vn), ヤコフ・クライツベルク指揮 オランダ・フィルハーモニー管弦楽団 (2006年12月オランダ、アムステルダム、ヤクルト・ホール録音)
(★★★★☆)

イリヤ・カーレル(vn), ピエタリ・インキネン指揮 ボーンマス交響楽団 (2007年6月録音)
(★★★★★)

KAYOさんが女流ヴァイオリニストのブラームスの聞き比べなんていう話題を振ってこられたので、ちょっと聞き始めたら面白くなって、シエスタの後、ブラームスを聞き比べをしながら過ごした。全部聞いたのはカーレルとフィッシャー、キョン=ファ・チョン、ラウテンバッヒャーの4種類。これだけでも2時間あまりで、後は第1楽章のソロの出から第2主題の提示までと第2楽章の冒頭と3楽章の冒頭からしばらくを聞き比べた結果である。
ハーンの録音が残っていたのだけれど、今日はご勘弁を…。またパイネマンの録音(マカール指揮)は持っているはずなのだけれど見つけられずリストにあげていない。そのうちにまた取り上げようと思っている。
私はあまり女流ということを意識して聞いたことはないのだけれど、まとめてみると結構熱演が並んでいるのには驚いた。
別にブラームスのこの協奏曲が女流ヴァイオリニストの定番というわけではないが、随分たくさん我が家にはあったものである。男性ヴァイオリニストのものは23種類ほどあった。女性ヴァイオリニストの私の所持しているものから今日取り上げたのは14種類。あと2〜3ほどの録音があるはず。
ちなみに★が1点、☆が0.5点。5点が最高評価ということで、私の印象でつけたもの。お遊び程度に読み流して欲しい。
では聞いてみての感想を書いていこう。

ヌヴーとシュミット=イッセルシュテットのライブ録音はフィリップスから復刻された時に、いわゆる初出のCDを買ったものだが、大いに興奮したものであった。ドブロウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽団との正規録音が全く冴えないので尚更だった(指揮が悪いというより、録音が悪い…と思う)。定評あるOPUS蔵の復刻がこの程度なのだから、もともと良くなかったのだろうと想像している。
その2年後のライブがこれほど良い(というほどではないけれど、当時のものとしては驚異的と言っていいほどだった)と、正規録音の値打ちはあまりなさそうだ。ただ、入れ込み過ぎていて、ちょっと聞いている方が焦ってしまう…。もっと細部まで仕上げた録音か私はやはり良い。こういう演奏はライブで聞くか、CDでならまれに聞いてみたいもので、ブラームスのこののどかで美しい音楽を楽しむにはあまり向いていない気がする。
ジョコンダ・デ・ヴィートの演奏ではフルトヴェングラーとのライブ録音があったけれど、あれはあまりに録音がよくないので、買って早々に売り払ってしまったものである。このルドルフ・シュヴァルツ指揮の正規録音の方がずっと優れている。オケもよくドライブしていてなかなか重厚で細部までよく磨かれた演奏だと思う。ただ1953年の録音ということで、それほど優秀録音というわけでもないので誤解なきよう…。
録音状態はデ・ヴィートと同じ程度であるが、マルツィがクレツキの棒でいれた一枚はなかなかの名演だが移行部などでテンポが少し走るというか上滑りするところが惜しい。しかし細部まで正確に演奏している点では私はデ・ヴィートよりも上に置く。
モリーニの録音は正規音源の復刻でようやく怪しげな海賊版などから私は解放された…(笑)。ステレオ録音だが、ごく初期の録音ということで期待し過ぎるといけないが、それでもかなりの水準で私は全く不満はない。
モリーニの演奏は実にノーブルで、ちょっと聞くと平凡。しかし楽譜に書いてあることをこれほど丁寧にきちんと演奏してくれているときっと天国のブラームスは満足だろうと思う。他の女流たちのように入れ込み過ぎてフォルムが崩れそうになったりというのとは無縁の高雅な演奏。
続いてオークレールの演奏は対極にある熱演。序奏を格調高く演奏して来た所に割って入るオッテルローのヴァイオリンは崩れそうなほどに熱に浮かされていて、それに振り回されてしまい、結構ソロとオケが危ない橋を渡っていく。ライブなら面白いけれど、いつも聞かされるのがこれではちと辛い…。 終楽章などその情熱的な演奏が血湧き肉躍る素晴らしい成果もあり、決して駄演というのではない。
スザンネ・ラウテンバッヒャーの演奏は、インスブルックのオケがよく健闘しているとは言え、やはり平板な部分が多く、ソリストはちょっと損をしている。
だが、ソロに関して言うならばここまで聞いてきた中で最も優れた演奏だ。オークレールのメン・チャイ(フィリップス盤)で共演していた時ほど酷くはないが、今ひとつの出来ではある。第2楽章冒頭のあの美しいオーボエ・ソロは下手な学生オケレベル。
マルツィのヴァントとの演奏は録音も冴えず、参考程度の録音だ。
続いてアンネ=ゾフィー・ムターの最初の録音。これは実に素晴らしい出来映えである。ソロとオケがこれほどの絶妙なバランスがとれている演奏がそうあるわけではない。ムターの若かりし頃の演奏として忘れてはならないだろう。
そしてムターの二度目(?)の録音となるクルト・マズアとニューヨーク・フィルとの演奏はよりムターの個性が全開で、好みが別れることだろうと思う。カラヤンの時よりもずっと弾き崩しが多く、マズアとの共演した新盤は私には恣意的に聞こえ、どうも居心地がよくない。
キョン=ファ・チョンは名演である。入れ込みすぎてバランスが崩れることもなければ、醒めた演奏でもない。サイモン・ラトルの指揮するオケもまずまずの出来映えでほとんど不満はない。
ずいぶん前に日本国際音楽コンクールで優勝したカトリーン・ショルツの演奏はあまりに軽量級のオケと、さっぱり醒めたソロがボソボソ言い合っている感じで、実につまらない録音だった。ここにあげなくてもよかったのだけれど…。
ユリア・フィッシャーはクライツベルクのオーソドックスな指揮でずいぶん得をしていて、知情意のバランスのとれた名演となっている。ユリア・フィッシャーの才能は最近の女流ヴァイオリニストの中でも最高のもの。ハーン、カーレル、諏訪内晶子、神尾真由子あたりが印象に残っているが、この人もその中に入る逸材だ。
終楽章などのオケと丁々発止とやりやうところで、もう少し突き抜けてくるような線の太さがあればと思う。惜しいところである。
最後にイリヤ・カーレルであるが、最近聞いてこれが一番気に入っている演奏である。オケがもうちょっとというところがあるのだけれど(主に録音で解像度に私は不満を感じるところである)これほど丁寧に録音されたものは近年珍しいと思う。聞いたことがない人にはお薦め!

追記
イダ・ヘンデル(vn),  ハンス・ミュラー=クライ指揮 SWRシュトゥットガルト放送交響楽団 (1955年9月20日ゼンデザール・ヴィラ・ベルク録音)もナクソスにあって今聞いているところ。放送局の録音ということもあるのだろうが、かなり良い状態で聞きやすい。演奏もノープルで私好みであるが、時々ソロが突っ込んで行くのはユニークではあるが、ちょっと?。ミュラー=クライは当時の首席指揮者だったはずだが、なかなか上手い。(★★★)としたい。
by Schweizer_Musik | 2009-08-18 18:17 | CD試聴記
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