夭逝した名ピアニスト、スルタノフのラフマニノフの第2番の協奏曲を聞く
作曲者 : RACHMANINOV, Sergei 1873-1943 露
曲名  : ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 Op.18 (1900-01)
演奏者 : アレクセイ・スルタノフ(pf), マキシム・ショスタコーヴィチ指揮 ロンドン交響楽団
CD番号 : iTune−Storeにて購入(800円でしたⅠ)

この美しい演奏を知らなかったのは不覚であった。スヴャトスラフ・リヒテルなどの豪壮な演奏からすれば対極にあるような演奏で、音楽の抒情性に焦点を当てた、実に美しい演奏だ。それでいてどこまでも深い響きでこの才能は素晴らしいⅠ!これがわずか35才で天に召されるとは、なんということであろう。
1989年のクライバーン・コンクールで優勝し、頭角を現した彼は、1995年のショパン・コンクールで一位なしの二位に輝く。が、それからわずか五年あまりたった2001年2月、硬膜下血腫で倒れ、ピアニストとしての活動を停止し、2005年6月にアメリカのフォートワースの自宅で亡くなったのである。まだ35才。ピアニストとしてのキャリアは30才の時に絶たれ、それから五年を生きて天に召されたのである。
この演奏は、クライバーン・コンクール直後、審査員でもあったマキシム・ショスタコーヴィチ指揮で録音されたものである。1989年11月オールドバラでの録音とあるから、彼はまだ20才になったばかりの頃の演奏ということになる。
ここにあるのは借り物の音楽ではない、真実の天才の輝きに満ちたピアノが繰り広げられている。マキシムの指揮するロンドン交響楽団もとても良い演奏を繰り広げていて、これはぜひ多くの人に聞いてもらいたい演奏である。
鐘の音が近づいてくる冒頭は遠くから聞こえてくるかのように始まるが、激しくなりすぎない表現は若かった頃のアシュケナージの録音を思い出させる。この気高いテンペラメントはこういうロシアの暑苦しい音楽に、なんともさわやかな風を吹き込んできて、一度はまると逃れられなくなるようである。
この曲の一番好きな「録音」はアシュケナージとハイティンク、そしてコンセルトヘボウ管とのものであったが、私の学校用のハード・ディスクのそれを消去し、この演奏に入れ替えることにした。オケはロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団に一日の長があると思うが、ロンドン交響楽団も素晴らしい演奏でこの前途洋々たる(ものであったはずの…泣)若者のデビューに花を添えている。
これを聞きながら、神を嫉妬させるような天才は、リパッティのように早く召されてしまうのだと、つい思ってしまった。私のような凡手は多分もうちょっと長生きさせていただけるのでは…。それにしても30才でキャリアを絶たれたとは、さぞ無念であっただろう。
by Schweizer_Musik | 2009-12-20 23:20 | CD試聴記
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