ゲザ・アンダの弾き振りで聞くベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番
作曲者 : BEETHOVEN, Ludwig van 1770-1827 独
曲名  : ピアノ協奏曲 第1番 ハ長調 Op.15 (1794-95)
演奏者 : ゲザ・アンダ(pf)指揮 ケルン放送交響楽団
CD番号 : Audite/AU23408

ゲザ・アンダは好きなピアニストの一人で、彼の演奏でハズレだったものというのはほとんどない。中でもこれは本当に素晴らしい演奏で、弾き振りらしい危なっかしさはまるでなく、活き活きと音楽が弾んでいて、若いベートーヴェンの意気揚々たる世界を伸びやかに表現している。
それにしてもなんて素晴らしいのだろう。こんな名演を聞かないで過ごすなんて、私にはちょっと考えられない…。
テスタメントがEMIなどへの正規録音をずいぶん復刻してくれているが、録音もライブながらさすがに放送局放出の音源で、大変素晴らしい録音状態で、ライブという風に言われなければ、ほとんどわからない。会場ノイズもないので、客を入れないで、セッションのような形でライブ放送したものなのだろうかと、想像しつつ聞いていたのだけれど、それほど良い状態で、もちろんステレオである。
1969年の録音ということなので、ステレオ中期である。ケルンのオケのシェフは確かギュンター・ヴァントだったはずで、(うろ憶えで恐縮ですが…)アンサンブル力はさすが放送オケらしい機能的でとても良い。
ゲザ・アンダのちょっとしたテンポの変化にも素晴らしい反応力でついていく様は、ホントはちゃんと指揮者がいるのではと思ってしまいそうになるほどである。
弾き振りは結構危険な仕事で、最近も某アマオケでその無謀とも言えるチャレンジをして撃沈したのを目撃したばかりなので…。(そんなのと比べてはどちらに対しても失礼かもしれないが…)
しかし、彼があんなに早く天国に旅立たなかったら、きっとベートーヴェンのピアノ・ソナタをもっと録音してくれていたはずだ。残されたいくつかのソナタの録音を聞くたびに、そのあまりの素晴らしさに、例えば第32番や「ハンマークラヴィーア」などをどう弾いただろうかなどと想像をたくましくするのである。
また、ブラームスの一番の協奏曲はどうだったのか…。二番はカラヤンとの素晴らしい演奏が残されているけれど。
我が家にはラフマニノフの協奏曲(二番)などもあり、音は悪いものの、ロマンチックな表情をいささか抑え気味にして、キリリとした辛口の演奏でなかなか聞かせるものだった。
多分、ショパンが口に合わないと不満だったのは、こうした甘さが彼には少ないのだろう。確かに彼の演奏する練習曲や前奏曲は良い演奏だった。
ベートーヴェンからずいぶん逸れてしまった…。それにしてもこの演奏の目覚ましさはどうだ!お聞きでない向きには、特にベートーヴェン・ファンと世評と見た目で聞かない良質の耳をお持ちの方にこそお薦めしたい逸品だ。
ライブとは言え、録音がステレオで、それも時代を考えれば大変上質なものであるのも嬉しいところ。
by Schweizer_Musik | 2010-01-19 09:05 | CD試聴記
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