シューベルトの交響曲 第4番より第1楽章の聞き比べ
作曲者 : SCHUBERT, Franz Peter 1797-1828 オーストリア
曲名  : 交響曲 第4番 ハ短調「悲劇的」D.417 (1816)より第1楽章 Allegro molto
演奏者 : 色々

先日、悪夢のようなK氏の指揮する演奏会の後の「反省会」なる飲み会で、yurikamomeさんがジュリーニが指揮したシューベルトの交響曲第4番の演奏がどうも変だとおっしゃっていて、ちょっと聞かせて頂いたけれど、この曲をそう一生懸命聞いた記憶がない私には、アーティキュレーションがちょっと違うなと思った程度で、よくわからないままに終わってしまった。
この曲は意外と私の盲点だったようで、ジュリーニの問題のグラモフォン盤も持っているし、聞いてもいるのだけれど、あまりそう感じないままに過ぎていたのは一体どうしてだろうと思って、このCDを取り寄せてあらためてこの曲を勉強するつもりでいくつかの手持ちのものと合わせて第1楽章をスコアを見ながら重点的に聞き比べてみた。
聞き比べた演奏は下記のものである。

1) エドゥアルト・ヴァン・ベイヌム指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 (1952年録音)
2) イーゴル・マルケヴィッチ指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 (1955年頃?録音)
3) カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 (1969年録音)
4) カール・ベーム指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 (1971年録音)
5) カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 シカゴ交響楽団 (1978年録音)
6) ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 (1977年,1978年録音)
7) ギュンター・ヴァント指揮 ケルン放送交響楽団 (1980年録音)
8) ヘルベルト・ブロムシュテット指揮 ドレスデン・シュターツカペレ (1980年録音)
9) ネヴィル・マリナー指揮 アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ (1982年録音)
10) オトマール・スウィトナー指揮 ベルリン・シュターツカペレ (1985年録音)
11)クラウディオ・アバド指揮 ヨーロッパ室内管弦楽団 (1987年録音)
12) ニコラウス・アーノンクール指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 (1992年録音)
13) マルチェロ・ヴィオッティ指揮 ザール・ブリュッケン放送交響楽団 (1996年録音)
14) アラン・ロンバール指揮 スイス・イタリア語放送管弦楽団 (2005年CDリリース)

第1楽章の序奏、C音のトゥッティで始まり、4小節目まで主和音を出さないで半音階的な動きではじまり、いかにもロマン派の申し子らしい序奏を形成している。
Allegro vivaceの冒頭のアウフタクトが、私の手持ちのスコアではスタッカートがついているが、ジュリーニは何故かこれをスタッカートを外して演奏している。弓を返しているようにも聞こえるが、シカゴ交響楽団との録音を聞くとどうも返さずにレガートで演奏しているようだ。シカゴ交響楽団とのグラモフォン盤ではテンポも遅めなので余計にそれが目立つこととなるのだが、ベルリン・フィルとのこのライブ録音は少し速めのテンポであるためそうした「違和感」は強くはないようだ。やはりyurikamomeさんが感じた違和感はテンポとアーティキュレーションの問題なのではないだろうか?
1) のベイヌム盤は序奏は少し平板に感じられるが、主部は遅めのテンポでじっくりと演奏しているが、テンポの変化などは少なく、古典的な様式の枠に収まっている。モノラルで、私の盤(LONDON/K28Y 1045)は少しテープ・ノイズが多いのでやや耳障りに感じられる。

2) のマルケヴィッチ指揮 ベルリン・フィル盤は序奏は大変美しく仕上がっている。抑揚を大きくとっていかにもロマン派の作曲家の手になるものらしい運びがさすがである。
それに対して主部がかなり速いテンポで駆け抜ける。私の手持ちの録音の中でも特に速いAllegro moltoだ。だから最初は弾き切れていないというか、セカセカして薄っぺらに聞こえてしまうが、次第にベルリン・フィルも焦点が合っていって、独特の焦燥感が表現される。

3) と 5) のジュリーニの演奏は、基本的に同じ解釈であるが、より徹底しているのがシカゴ交響楽団との録音だ。序奏部だけなら大編成にものを言わせて、大交響曲のようにはじめるジュリーニにかなうものはない。この序奏部は実に立派で、ベルリン・フィルとの録音はライブらしくまだ序奏ではエンジンが温まっていないという印象である。
主部に入りしばらくしてようやく焦点が定まってくる…。
先に書いたように、明らかにアーティキュレーションはジュリーニ独特のものであるが、テンポについて言えば、特に遅いというほどではない。きっとmoltoという指示を読み忘れたのだろう(笑)。

4) のカール・ベーム指揮ベルリン・フィル盤は、日本人大好きのベーム翁のまだまだ元気溌剌だった頃の(オロナミンCからのまわし者ではありません、悪しからず…)録音で、序奏部の古典的な佇まいと、キリリとしたAllegro moltoの表現に魅力がある。何とも厳しいシューベルトであるが、これもまた多くの人を魅了した名演であることには違いない。

6) のヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルはひょっとしてジュリーニ風のスタッカートをレガートにやっているのではと思わないでもなかったが、意外と(?…笑)普通の演奏で、Allegro moltoはいかにもというテンポで駆け抜ける。マルケヴィッチほどでないにしても、快速なAllegro moltoであるが、私にはやや走りすぎにも聞こえる。

7) は長らく私のこの曲の基準となっている演奏で、ずいぶん前に聞き比べてこれが一番という結論に達したもの。テンポ、アーティキュレーション…全てにおいて理想的なパフォーマンスである。少なくともヴィオッティの録音を聞くまでは…。

8) のブロムシュテット指揮 ドレスデン・シュターツカペレの録音は冒頭がやや荒っぽく感じるだけで、全体に素晴らしい出来映えで、何と言ってもドレスデン・シュターツカペレという天下の名器を思うままに動かして、ほのかにロマンの香りを感じさせるあたりは絶品と言ってもよい。

9) のマリナー指揮 アカデミー室内管の演奏は、少し速めの序奏が印象的。おかげで主部との性格の対比は少し薄まり、古典的な造型美に表現がシフトすることとなる。キビキビとしているが、やや物足りないところもある。

10) のスウィトナー指揮 ベルリン・シュターツカペレの演奏はヴァントとともに最もバランスのとれた演奏と思う。ただ好みの問題ではあるが、残響を深くとりすぎていて、エッジが甘くなってしまう傾向がある。もう少し明確な録音が私は好きなのだけれど…。

11) のアバド指揮 ヨーロッパ室内管は序奏はそこそこの感じであるが、響きが平板に感じられるのが惜しい。主部は明らかにテンポが遅すぎる。古典的な感じは受けるが、このテンポが違和感を与えている。私にはジュリーニ以上に親しみを感じない演奏だ。決して下手ではないのだけれど(当たり前だ!!)…。

12) のアーノンクール指揮 コンセルトヘボウ管の演奏はアバド以上に私には親しみを感じない。フレーズにふくらみがなく、パートの受け渡しもうまくいっているけれど、どうもギスギスと乾燥した音色ばかりで、乱暴に聞こえる。
音楽の構造についてはさすがアーノンクールで、深い造詣が感じられるが、この演奏法については私はとらない。

13) ヴィオッティ指揮 ザール・ブリュッケン放送響は、私の目下のところ最高の名演である。ヴァントとこれが私のお気に入りで、次いでブロムシュテットとスウィトナーということになる。アーティキュレーション、テンポ、アンサンブル、全てにおいて完璧だ。
このヴィオッティの全集は国内盤が出なかったためなのか知らないが、何故か我が国では話題に上らなかったが、この全集は素晴らしいものだ。

14) はiTune−Storeからダウンロードしたもので、ロンバール指揮 スイス・イタリア語放送管の演奏。これが一番遅いテンポをとっているのだが、アバドやジュリーニほど違和感を感じない。聞き続けてきて慣れてきたせいかと、もう一度アバドとジュリーニのシカゴ交響楽団盤を聞いてみたが、このロンバール盤よりもやはり違和感が残る。この演奏の生き生きとした表現故であろうか。
意外なところで、面白いものに出会ったという感じである。たまにはこれも良いなと思っている。スウィトナーに次いでこれを5番手ぐらいに入れておこう。

結局、今のところ大好きなのはヴィオッティということに決定した。あくまで私の好みなので、厳しい突っ込みはひらにご容赦!!


写真は、ジュネーヴ。ローヌ氷河を水源として流れ込んだレマン湖という大きな水たまりからローヌ川が再び流れを取り戻すところにあるルソー島を撮ったもの。
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by Schweizer_Musik | 2010-03-24 07:50 | CD試聴記
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