メンデルスゾーンの「宗教改革」をムーティの名演で聞く
作曲者 : MENDELSSOHN-BARTHOLDY, Felix 1809-1847 独
曲名  : 交響曲 第5番 ニ長調「宗教改革」Op.107 (1830)
演奏者 : リッカルド・ムーティ指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
CD番号 : EMI/3817882

今聞ける、この曲のベストの演奏はきっとこれではないだろうか。若き日のムーティが残した記念碑的名演である。颯爽としていて、細やかな情感にも欠けていない。やたらと速いテンポで煽るようなところもなく、落ち着いたテンポでスケールの大きな演奏となっている。
冒頭の序奏は素晴らしく、最近コリン・デイヴィス指揮ドレスデン・シュターツカペレの演奏で聞いたけれど、オケが荒れていてちょっと途中でかつての美しい響きがここまで消え去るものかと時の経過の残酷さを感じたものである。
この作品は、ニ長調とニ短調を同じ一つの二調として扱っていて、第1楽章の序奏からその特異な調感覚が示されている。この曲の私が最も興味を惹かれるところはここなのだけれど、和声的に特に特殊なことをしているわけではなく、メンデルスゾーンらしい古典的な枠組みの範疇で収まっている。
第1楽章冒頭の「ドレスデン・アーメン」の旋律が終わりで再び出てきて、ゆったりと第一主題が演奏されそれが力を増してエンディングへと突入すあたりはまさに手に汗握る名演!!
第2楽章は舞曲楽章でスケルツォというよりドイツ舞曲風である。宗教的なテーマの作品ということでスケルツォ(諧謔)やメヌエットやレントラーといった名称を避けたのだろう。「イタリア」の第3楽章のような味わいだ。
第3楽章は更に小さな楽章だ。しかし冒頭のメロディーは極めて美しく、ムーティの演奏で聞くと艶やかにすら聞こえてくる。私はこの曲の中間の2つの楽章が第1楽章や終楽章のあまりに素晴らしい出来映えからすると簡潔でありすぎるように感じ、物足りなく感じることが多いのだが、ここまで粘って歌った演奏で聞くと、そうした不満を感じずに済む。
終楽章はルターの聖歌で、バッハのカンタータなどでも有名なコラール「神はわが砦' "Ein feste Burg ist under Gott"」によるもので、主題としてこれが扱われ、ポリフォニックに展開をしていく。この対位法の技術はさすが!!

書かれたのは1830年だった。宗教改革300周年のアニヴァーサリーにと書かれたものだが、これが彼がユダヤ人であることを嫌って演奏されず、実際に演奏されるのは2年後の1832年。そしてメンデルスゾーンの生前に演奏されたのはそのたった一回だけだったという。事情はわからないが、メンデルスゾーン自身はこの作品の出来映えが気に入らず、生涯をかけて改訂を施している。その経緯を見ているとこの曲にかけるメンデルスゾーンの執念のようなものまで感じられる。
しかし、ベートーヴェンが亡くなってわずか数年で、フランスではベルリオーズが幻想交響曲を書き、メンデルスゾーンがこうした革新的な作品を書いているのだから、この頃の音楽の革新のスピードは極めてはやかったようである。
古楽からこの革新的な音楽(構成、オーケストレーションなど様々な点からこの音楽は当時の最先端を行っていた…)をより古めかしいスタイルで捉え直すかのごとき演奏は私はあまり関心がない。彼らがもたらしたものをもっと積極的に評価すべきだと思う。

この曲も今日の神奈川フィルの音楽堂シリーズで演奏されていたはずだ。ムーティのように鳴っていただろうか?

写真はアインジーデルンの大聖堂。でもここはカトリックです…。
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by Schweizer_Musik | 2010-04-10 21:43 | CD試聴記
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