ノヴァークの「スロヴァツカ組曲」
作曲者 : NOVÁK, Vítĕzslav 1870-1949 チェコ
曲名  : スロヴァツカ組曲 "Slovácká suita" Op.32 (1903)
演奏者 : イルジー・ビエロフラーヴェク指揮 プラハ室内フィルハーモニー管弦楽団
CD番号 : Supraphon/3372-2 931

第1曲 教会で "V kostele (In the church)"
第2曲 子供達の中で "Mezi dětmi (Among children)"
第3曲 愛する二人 "Zamilovaní (The Amorous Couple)"
第4曲 村の楽団 "U muziky (The country musicians)"
第5曲 夜に "V noci (At night)"

おそらくはノヴァークの代表作がこれであろう。
ドヴォルザークの最初の弟子であり、後にはドビュッシーなどのフランス近代の作曲家たちの影響を色濃く受けた彼が、第1曲の「教会にて」でモードを薄く取り入れながら、機能和声で彩っていくあたりは、時代を感じさせるが、筆致は巨匠のそれで、木管を巧みに使ってパイプ・オルガンや聖歌隊の響きを作りだしているのは興味深い。
ただ技法的に徹底していないので、やや折衷的な印象を受けるが、それはノヴァークに対して無い物ねだりをしているに過ぎないだろう。
この素朴な音楽への真っ直ぐな態度を私は高く評価したい。ハープが、教会のオルガン風の響きの上に使っているので、ちょっとブルックナーみたいにも聞こえる。もちろん音楽の質というか目指しているものは全く違うが。
第2曲もドビュッシーなどの影響を受けているが、その中に独自の味わいが出ていて、こういう行き方もあるのかと思ったけれど、民謡風のメロディーと9の和音などの使い方がちょっとカントルーブの「オーヴェルニュの歌」を思い出したりしていた。ノヴァークの方がもちろん先であるし、管弦楽法も全く違うが、和音の選び方、主題の選び方に特徴が似ているようにも思った。
第3曲はベタベタの甘いメロディーにならない節度が気持ちよい。木管が再び活躍するが、弦と対立するかのような扱いが第1曲とともに目立つが、このあたりがこの曲の特徴なのではと思ったりした。中間部の舞曲風の音楽は、明らかに師のドヴォルザークゆずりの活気のある世界が描かれていて、魅力がある。(とても短いのが残念だけれど…)
第4曲は私がこの曲の中で特に好きな楽章。村の楽団のあまり上手でない…演奏をコミカルに、そして活気あふれる音楽の中に描いたこれは、下品にもならず、村の音楽家たち?への愛情があふれ、どこもかも魅力に満ちている。
第5曲は一転して静かなはじまりで前曲との対比が際だっているが、その夜の描き方も独特で実に美しい。彼はまだメロディーの未来を素朴に信じていた世代の音楽家なのだと痛感した。バルトークのような深淵を覗くような深さも、ファリャのような幻想も華やぎもここにはない。それはもっと後の時代のものだ。1903年に若い作曲家が感じたままに書いたそれが、メロディアスでどこも間違っていない。変な知識で、後の時代のもののような要素がないとダダをこねてみても、何も生まれない。この「夜の音楽」のメロディーにひたすら耳を傾けたいと思う。
全5曲で30分弱の力作だ。ノヴァークの作品の中でもこの曲だけはよくとりあげられるようで、CDも何種類か出ている。昔はヴァイナル指揮のチェコ・フィルの録音か古いヴァーツラフ・ターリヒの録音くらいしかなかったけれど、少しずつノヴァークも再評価の機運が出てきたということだろうか?
ビエロフラーヴェクの演奏は1998年の録音ということだが、実に見事なものである。色々と良い演奏が出ているようなので、聞いてみられては?

写真はスイス東部、ボーデン湖から流れ出すライン川の小石のような島(中州)にあるシュタイン・アム・ラインの修道院教会の回廊。こんな明るさと素朴さがこの曲に合っているような気がして…。
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by Schweizer_Musik | 2010-04-22 09:26 | CD試聴記
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