オネゲルの「火刑台上のジャンヌ・ダルク」を小澤征爾の指揮で聞く
作曲者 : HONEGGER, Arthur 1892-1955 スイス
曲名  : 劇的オラトリオ「火刑台上のジャンヌ・ダルク」(1934-38)
演奏者 : 小澤征爾指揮 フランス国立放送管弦楽団,合唱団,少年合唱団, フランソワーズ・ボレ(sop/聖処女),ミシェル・コマン(sop/マルグリート),ナタリー・シュトゥッツマン(alt/カトリーヌ),ジョン・アラー(ten/裁判官,豚,伝令官,司祭),ジャン=フィリップ・クールティ(bs/声,伝令官), マルテ・ケラー(語り/ジャンヌ),ジョルジュ・ウィルソン(語り/修道士ドミニーク),ピエール=マリー・エスクル(語り手),ポーラ・ランツィ(語り/酒樽母さん)他
CD番号 : Grammophon(TOWER)/PROA-37



前のノーヴェンバー・ステップスと同時期の録音であるが、この曲の最高の演奏である。オネゲルは「ダヴィデ王」以後、こうした大規模な声楽作品を得意としてきた。彼はフランス系スイス人と書かれたりしているが、こうした間違いがあまりに多く、一々指摘するのももどかしい。彼は貿易商を営む、フランスの田舎に住むドイツ系スイス人の家庭に生まれたスイス人である。第一次世界大戦の時には、スイス軍に従軍し、国境警備についている。
ジャンヌ・ダルクはフランスの国民的英雄であり、カトリックの聖人の一人でもある。フランスをテーマとしているこの作品をとりあげると、また誤解する人がいるのではと心配する。
ともかく、このオネゲルの傑作は、規模が大きいこともあり、なかなか実際に聞く機会がないが、十年あまり前にNHK交響楽団でデュトワがとりあげていて、その頃東京にいたら、絶対に聞きに行っていたのにと思わざるを得ない。
小澤征爾はサイトウ・キネンでもとりあげていて、そちらもレーザー・ディスクで出ていた。こちらは日本盤が長く廃盤のままであったが、TOWER-RECORDSの企画で復活して(それも廉価で!!)聞くことができる。ありがたいことである。
できれば、サイトウ・キネンの映像もDVD化してくれないものだろうか?字幕がついていれば、若干複雑なこの作品の筋立てもよく理解して鑑賞できるようになるし、この傑作への理解も深まることであろう。
ありふれた田舎の娘、ジャンヌが、聖母マリアのお告げに遵って、百年戦争でオルレアンの解放を成し遂げ、フランスを勝利に導きながら、コンピエーニュの戦いでドイツの捕虜となり、火刑となるというある劇であるが、宗教性のある題材ゆえに、歌劇とはせず劇的オラトリオとして書かれているが、歌劇としても上演は可能なのではないだろうか?
オネゲルの書いた音楽は実に感動的なもので、最後に火刑台上でジャンヌが「私が、愛するマリア様を照らすロウソクになります」と歌い、死の恐怖から解き放たれ、信仰に身を捧げて命を差し出すという場面の感動は、後のクリスマス・カンタータの感動に通じる何かがある。この部分での多層的で重厚極まるオネゲルの筆致は、所謂軽妙洒脱なフランス近代、あるいは印象派などとは全く異なる世界にある。
また、この作品はオンド・マルトゥノが大変活躍する作品で、独特のサウンドを楽しむことができる。ちなみにオネゲルはこの新しい電子楽器が好きだったようで、ずいぶん色々と書いているのだけれど、その話はまたいつか…。
それにしても、小澤征爾はオネゲルと大変相性が良いと思う。なのに、未だに交響曲やダヴィデ王の録音は行われていない。この演奏を聞いて痛感するのはそのことである。残念なことだ。

写真はフィーアヴァルトシュテッター湖(ルツェルン湖)の風景。向こうの岬の先にはスイス建国の地であるリュトリの野が広がっている。ウィリアム・テルの地でもあるのだ。
オネゲルの「火刑台上のジャンヌ・ダルク」を小澤征爾の指揮で聞く_c0042908_22594865.jpg

by Schweizer_Musik | 2010-11-15 22:59 | CD試聴記
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