作曲者 : SCHUBERT, Franz Peter 1797-1828 オーストリア
曲名 : ピアノ・ソナタ 第4番 イ短調 D.537 (1817) 演奏者 : 内田光子(pf) CD番号 : DECCA/475 6282 この曲は長らくヴィルヘルム・ケンプの演奏で聞いてきた。ミケランジェリの素晴らしい録音もあったっけ…。で、この内田光子の演奏はケンプのそれが墨絵の世界だとすると、内田光子は極彩色の錦絵と言うべきだろう。 第1楽章から冬の風が吹きすさぶ中を、旅人は背中を丸くして歩いていくのだ。「冬の旅」の10年前の曲とは言え、この作曲家には円熟とかはなかった。技術的な発展はあったかも知れないが、普通のレベルで言えば、彼は巨匠として登場し巨匠として亡くなったのであるから、晩年の作品だから達観した境地などというのは、後の時代の人たちの単なる思いこみだと私は考えている。三十そこそこの人生だったのだ…。実際に彼の作品で残されたものは14〜5才以降の曲ばかりで、実働15年。その間にあれほどの作品を書き残したのである。五線紙すら買えない貧乏の中…。 このわずか二十歳の作曲家の手になる作品から、私は若さと老成が混在しているような錯覚を憶える。彼の音楽の中に、常に「死」が同居しているように思われるのだ。それが甘い死であるか、辛く苦しいものであるかと言われれば、死は甘く、生は限りなく苦しい…それに尽きるのではないだろうか。 しかし、冬の旅は死への旅立ちではない。あれはその苦しみをあるがままに受け入れ、更に生き抜く強さへと止揚していく姿こそ本当のテーマなのだと私は思っている。 だからあれは若者の手になったのである。老いの中からはああいった最後は書けないのではないか? そして私はこの曲に「冬の旅」の世界を強く感じるのである。 いや、正確に言えば、シューベルトのほとんどの作品は最後は同じ「冬の旅」を歩んでいると思う。そこに生きる意志の強さと、甘き死と…。 ただ、彼はまだ戦うので精一杯で、ライヤー弾きはここには登場しない。しかし、「冬の旅」の世界そのものがこの曲にはあると私は思うが、みなさんはいかがお考えであろうか? 内田光子は、饒舌にその世界を歌い、奏でる。ケンプの世界の寡黙でインスピレーションをかきたてるものと対照的だ。これを是とするか否かによって判断ははっきり分かれるだろう。私はこれもまた是とする。 写真は「夏の終わりの!!」スイスはセンティス山頂の道標。
by Schweizer_Musik
| 2010-12-12 07:59
| (新)冬の夜の慰めに…
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