ベルクのピアノ・ソナタをエマールの演奏で聞く
作曲者 : BERG, Alban 1885-1935 オーストリア
曲名  : ピアノ・ソナタ Op.1 (1907-8)
演奏者 : ピエール=ロラン・エマール(pf)
CD番号 : TELDEC/WPCS-11303



この曲の私の理想的な演奏はシューラ・チェルカスキーのニンバス盤なのだが、あの溢れる後期ロマン主義の爛熟した響きの横溢は、まさにこの曲の世界そのものだと思っているが、エマールはそれをサッパリと切り捨て、すっきりしたプロポーションの立体的な構造へと仕立て上げた。
これもまたひとつの典型ではないだろうか?上手すぎると言いたくなるほどの出来映えで、こうした音楽をたくさん演奏してきているエマールらしい見事な処理が随所に聞かれる。
彼の演奏で聞くと、この複雑な構造の音楽がとてもわかりやすい構造に聞こえてくるから不思議だ。情緒が切り落とされているわけでもなく、それなりの情感はもちろん表現されていて、決して不足はない。ピアノの音もやや硬質ながら透明感のある美しいものである。
同じCDにはベートーヴェンの「アパッショナータ・ソナタ」が入っていたりする。見事な演奏である。ただ、響きも含めて整理されすぎていて、もっと濁った響きの中に埋没しているようなところもきれいに浮かび上がり、立体的に聞こえる。それはエマールの並外れたピアノのテクニック、タッチとペダリングへの鋭い感覚があるためなのだろうが、私の知るベートーヴェンの音というより、もっと違った何かにこそ向いているような気がしてならない。
ベルクも同じ土俵にのっており、私にはあまりに見事で素晴らしいものの、かすかな違和感を感じてしまった。もっと良いのではと思いすぎていたところもあり、ちょっと残念にも思う。
彼とアーノンクールのベートーヴェンの協奏曲を聞いたときも、その素晴らしさに感心しながらも、感動はしなかった。どうも不思議なピアニストである。とびきり上手いのだけれど、どうして私の琴線に触れないのか…今日も聞いていてよくわからなかった。
もう少し、聞き続けてみようと思う。私は何かを聞き逃しているような気がしてならないのだ。彼のリゲティであんなに感動したのは一体何だったのか…。

写真はダヴォスの駅前で見た残照…。どうです?涼しそうでしょ?
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by Schweizer_Musik | 2011-08-16 21:44 | CD試聴記
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