作曲者 : EBEN, Petr 1929-2007 チェコ
曲名 : ピアノ三重奏曲 (1986) 演奏者 : フロレスタン・トリオ【アンソニー・マーウッド(vn), リチャード・レスター(vc), スーザン・トームス(pf)】 CD番号 : hyperion/CDA67730 ペテル・エベンは、カトリック教徒であるが、父親がユダヤ人であったために1943年に音楽学校からナチによってブーヘンヴァルト強制収容所に入れられてしまう。 戦後、生き残った彼は音楽学校へ復学したのだが、この時代に生まれた世代の人たちは多かれ少なかれ、戦争との関わりを持つことになる。平和な時代に育った私たちには、なかなか実感がないので難しいことだが、やはり知っておかなくてはならないことだと思う。 ただ、この音楽とは何も関係はないと思うが、それにしてもただならぬ緊張感のもとにこの曲ははじまる。ドラマティコ(劇的に)と指示された第1楽章は、ピアノと弦が対立し、対照的な役割を担うことで、強烈なアイロニーを生み出していると思う。 第2楽章のAndante con espressioneでそれはかなり和らぐものの、響きにどこか冷たさ、恐怖、絶望が聞こえてくる。第3楽章のLentoはそれが更に発展し、嘲笑、嗤いが挟まれつつ、葬送の音楽が流れていく…。鮮烈な音楽だ。終楽章のAgitatoはそれらがより劇的に描かれる。 エベンはピアノとオルガンの即興演奏でも有名だったし、私は彼のオルガン作品も知っているが、私の知るエベンの音楽はいつもではないにしても、こうした独特のアイロニーを感じさせる。それが、収容所体験と関わっているのかどうかなんて、私にはわかるはずもないが、屈託のない幸せを描くことなんて、はるか昔に奪い取られたきりなのではないかと、想像してしまった。 フロレスタン・トリオの演奏であるから、これを実に美しく磨き上げて演奏している。下手に悲劇性や緊張を高めるような演奏をしないでも、音楽が自然と呼吸し、自然とそれを語っているという風情で、とても好ましい。こういう優れた演奏であればこそ、彼の音楽がより広まっていくことであろう。 前衛とは距離を置き、イギリスなどでも教鞭をとっていた彼は、大変高い教養を身につけた紳士でもあったそうで、1955年に最初についた仕事は、プラハ大学の音楽史の先生だったという。 幅広い知識と教養は作曲家の基本的なたしなみ…とすれば、私などとても恥ずかしくて作曲家でございなどと言いにくくなってしまう…。 写真は名峰ユングフラウの山頂付近をシルトホルンから撮った一枚。多くの観光客でごった返しているユングフラウヨッホはこの反対側になる。
by Schweizer_Musik
| 2011-09-06 19:58
| CD試聴記
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