超私的「ランキング」ピアニスト編 Vol.6
第25位 ギャリック・オールソン

オールソンは今は無くなってしまった大阪サンケイ・ホールで聞いたことがある。ショパン・プロで、ポロネーズなどを聞いた記憶があるが、詳細はもう憶えていない。なんだか大柄で、細部にこだわらないタイプかなという印象だった。
しかし、その後、彼の消息はほとんど聞かなくなってしまった。ショパン・コンクールの優勝者の中でも最も地味な人になってしまったように思われるが、今では滅多に見かけないアラベスク・レーベルでドビュッシーの練習曲などのCDを聞いた時にその精妙な演奏に驚いたことがある。(AEABESQUE/Z6601)
CD初期のものだが、以降、時々彼のCDを見つけては購入しているところではある。
1970年のショパン・コンクールの優勝であり、1948年の生まれの彼は、もう大ベテランの仲間入りをしている。私が音楽を聞き始めた頃は、有望な若手の一人だったけれど…。
ショパンの多くの作品は二度にわたって彼は録音している。二度目の全集は未聴なので書けないが、近年、Bridgeレーベルへ行ったベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集はコヴァセヴィッチと並ぶベートーヴェン演奏の金字塔である。
彼は、メジャー・レーベルを避けて歩いているようで、こうしたマイナー・レーベルでいくつもの素晴らしいCDを残しているが、これとバッハのゴールドベルク変奏曲のCDは格別の出来だった。
後、印象に残っているものとしてはスクリャービンの練習曲のCDがある。彼が大変クレバーなピアニストであることは、前記のドビュッシーで強く印象に残っているが、このスクリャービンでもそれは確認できる。
ショパン・コンクール直後にEMIに録音したショパンものでも、まだ慎重さが全面に出ていて、少し小さくまとまっているところも無いではないが、タッチの美しさ、スムーズなディナーミクの変化、音色の変化がもたらす音楽の立体感は感じられ、若い時からそうだったのだと知る事が出来る。
それならば、あのサンケイ・ホールで聞いた時、私は彼の真価を聞き取ることが出来なかったということなのだろう。まだ私は高校生だった。ピアノの何たるかも知らず、ただただ音楽を聞くのが好きで好きでたまらない高校生だった。
オールソンを聞きながら、若かりし頃をちょっとほろ苦く思い出し、でもあの頃はしんどかったけれど楽しかったなぁとつくづく思うのである。私にとってオールソンはそんなピアニストである。
彼の多くの録音から1枚ということで選ぶなら、ベートーヴェンのソナタ全集からどれか1枚をということにしたい。あとは好きな曲が入っているものから選べばいいだろう。私なら大好きな2番のエレガントな演奏が聞ける第2集(BCD9201)か、私が大学入試で弾いた第5番の理想的な演奏が聞ける第9集(BCD9274)あたりを選ぶだろうが、この他の演奏も実に魅力的だ。ベートーヴェンのイメージそのもののピアノを聞くならコヴァセヴィッチやレーゼルが良いだろうが、ピアニスティックな楽しみを聞くならオールソンだろうと思う。

写真はクライネ・シャイデックから見たアイガー。小さく移っている女性はわが愛妻である(笑)。
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by Schweizer_Musik | 2011-10-11 21:40 | 超私的「ランキング」
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