ガーシュウィンの「スワニー」という曲について考えていたら、古賀政男の「東京ラプソディー」が頭に浮かんできて、離れなくなってしまった…(笑)。
この2曲、双子のように似た形式とモティーフを持っている。盗作とかいうのではなく、偶然ではないかと思うのだが、やはり似ている。無論、編曲によるのだが、ガーシュウィンのピアノ・ロール録音で聞くと、冒頭、東京ラプソディーが始まったのかと驚いてしまうほどだ。 誰か、このことについてネットで書いていないかと思って検索してみたのだけれど、見つからなかったので、話題として振っておこうと思う。 くどいようだけれど、盗作とは違うと私は考えているので、そうした話題と誤解なきよう、お願い申し上げる次第である。 このスワニーを最初にヒットさせたアル・ジョンソンの歌で聞いていたら、昔はこんな音で良かったのだなどと不遜なことまで思ってしまったが、録音技術のことを考えれば、当時はこんなものだったのであろう。 1920年頃のことであり、まだ、ラプソディー・イン・ブルーなどの大作に挑む前のものなのだから。 しかし、古い録音やら、色々とりまぜて当時のもの、例えば、ガーシュウィン少年のアイドルであったアーヴィング・バーリンの音楽やシグムンド・ロンバーグ、ジェローム・カーンなどの諸作を聞き、ガーシュウィンを聞くと、その音楽の近代性というか、新鮮さに驚かされる。シグムンド・ロンバーグなどは素朴な味わいしか感じなかった。 ガーシュウィンの才能は突出していたのであった。彼が39才という若さで亡くならなければ、どんなことになっていたのだろう? 楽譜の書けないガーシュウィンよりも9才年上だった作曲家アーヴィング・バーリンは、1989年まで生きていた。なんと101才で天寿を全うしたのだったが、それに比べてガーシュウィンは…。 それでも彼の20世紀音楽に与えたインパクトは計り知れない。彼がいなくとも、ジャズやブルースはクラシック音楽といわれる世界の作曲家たちに影響を与えただろうが、そのあり方はかなり違っていたことだろう。少なくとも、あれほどの広がりは無かったに違いない。 正規の音楽教育と言えば、チャールズ・ハンビッツァーという音楽教師に断続的について習ったことぐらいだった。それでもその教師は、バッハ、ベートーヴェンからドビュッシーやラヴェルの音楽の理論を断片的にではあるが教えてくれたのだった。 それが、天才ガーシュウィンの受けたほとんど唯一の教育であり、他は独学だったのである。 ピアノは12才の時に音楽と出会い、2年ばかりやっただけだったが、腕前はかなりのものになり、夏のリゾート・ホテルでピアノを弾いてアルバイトしたことで、ピアノで稼げると知るとサッサとレッスンも学校も辞めてジェローム・H・リミック社という音楽出版社に就職してしまう。この出版社のあったニューヨークの28番街、通称ティン・パン・アレー(鍋釜通り)で彼はピアニストとして生活をはじめたのだった。 彼にとって、売春宿で演奏される音楽も、モーツァルトも同じように大好きな音楽であった。どちらが上とか下とかいう下らない事は、多分彼の眼中にはなかった。そしてそれが恐らく彼の音楽を他では聞かれないユニークなものに仕立てたのであった。 少なくとも、楽譜出版者という、当時の音楽の最先端のメディアに入り、そこで、最先端の音楽をどんどん吸収できて収入も得ることが出来たことが、彼にとって大きなメリットだったに違いない。 この頃に書かれたという「ホエン・ユー・ウォント・エム、ユー・キャント・ゲット・エム "When you want'em, you can't get 'em"」(1916)を聞くと、19世紀ヨーロッパのポピュラー音楽とラグタイムなどが微妙に合体し、彼の中で熟成していったことがわかる。 「スワニー」は冒頭がドリアン・モードでヴァースが出来ている。そしてリフレインで同主調に転調してまず5音音階風にはじまる。これは「アイ・ゴット・ア・リズム」などでも使われた方法で、実は全く違ったテイストであるが、ドビュッシーの初期の作品に特によく聞かれるものでもある。 ブルー・ノートなどに惑わされて、彼のブルースの感覚につい目が向いてしまうけれど、本質は意外と繊細なメロディー・メイクにあるのではと私は考えている。 ところで、ガーシュウィンの音楽は、私のような者にも色々と考えさせられるものではあるが、私の授業をとっている我が校の学生たちの中に、このガーシュウィンの末裔たちがいる。才能はあるが技術がない…。でもそれはガーシュウィンという天才がその短い生涯の最後まで持ち続けたコンプレックスだったのではないだろうか?そんなことを、今日は仕事の合間に考えていた。 写真はサース・ウェーのレングフルーから見たミシャベル連山の雄大な眺め。
by Schweizer_Musik
| 2011-10-17 16:49
| 授業のための覚え書き
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