授業のための覚え書き -3- セリエリズムと新古典主義
1つの調性は大体7つ程度の音から出来ている。これに派生音を入れると、調性は曖昧になってしまい、果ては調性感が失われることとなる。試しに、ピアノで右手を白鍵、左手を黒鍵において、できるだけ細かい音をなんでも良いから弾いてみると良い。すると、即席で調性を感じない響きが生まれ出てくるはずだ。
7つの音を同時に鳴らしたら?配置の仕方によって結構きれいに響くのだけれど、調性感は曖昧になっていくことは否めない。さらにその間の派生音も入れると、もうかなり大変な音響になってしまう。
マーラーの絶筆となった交響曲第10番のアダージェットのクライマックスで、12個の音に一個だけ足りない11個の音が積み重ねられてフォルテで鳴り響くが、はじめて聞いた高校生の時のあのショックにも似た感動は、今も忘れられない。
完全な混濁、一種のカオスは、プロコフィエフの「ロメオとジュリエット」にも出てくる。こちらは、12個の音か敷き詰められ、恐ろしい深淵がぱっくり空いているかのようで、やはり強い印象を残す。
こうした試みは、近代においてだけでなく、古くはバッハなどでも出て来ているのだけれど、それらはあくまで調性の範疇を越えない形での使用である。モーツァルトの40番交響曲の終楽章、展開部への移行部での12の音の連なりは、ただただ、減七の和音の連続がもたらしたもので、モーツァルトは無調や12音技法などとは心にも思っていなかったことであろう。
しかし、そうした実例があることは、ミヨーなどが指摘しているとおりであるが、それは調性音楽の持つ、自由度故と考えるべきであろう。

世に言う12音技法は、長7度の中に含まれる12個の音を平等に使用することで、古典的な調性感とは異なる新たな「調性」とも言うべき基本理念を獲得した技法であるが、ヨーゼフ・マティアス・ハウアー(HAUER, Josef Matthias 1883-1959 オーストリア)によって最初に作られ、それに影響を受ける形でシェーンベルクなどが更に別の技法へと進化させたものである。
ハウアーの技法は、彼自ら呼ぶところのトローペ(Trope)という理論に基づくもので、1919年に書かれたノモスOp.19 というピアノ作品によって発表された。一方、シェーンベルクは1921年に発表した5つのピアノ曲の最後の「ワルツ」でこの12音技法を使用した。但し、これらの発表以前の1916年に、ロシアのニコライ・オブーホフがインヴォカシオンという2曲のピアノ曲で12音技法を使ったというが、私はそれを聞いたことも(楽譜を)見たこともないので、言及は控えたい。
12音への過程で、様々な紆余曲折があったのであるが、その最も大きな事件は、お互いに協力し合いながらやっていたバウアーとシェーンベルクが袂を分かつこととなったことであろう。
ハウアーは「音楽家は芸術的な表現を志向するのではなく12音のそれぞれが持つ霊的な真実を代弁することにのみ尽力すべき」と主張し、シェーンベルクやアドルノたちと別れてしまうのであった。
以降、色々と非難合戦が行われたようであるが、ハウアーは第二次大戦の中でもウィーンに留まるものの、作品を発表する機会が失われたままとなって、次第に忘れ去られて行く。
一方で、シェーンベルクはアメリカで活躍したことで、忘却を逃れていた。そして12音技法は、ウェーベルンなどを経て、次の世代へと受け継がれて行ったのである。

煩雑さを避けるために、ここではシェーンベルクの12音技法について説明する。しかし、部分的にトローペの考え方がこの12音の音列の作り方などに影響を残していて、そうしたところにも注目しておきたいものである。

12音は音楽理論なので、音符のわからない人にはちょっと難しいものであるが、1つの12個の異なる音からなる音列が出来れば、それを半音ずつずらしていくと、12個の音列が自動的に出来ていくことはご理解いただけるだろうか?(original)
その音列の音程関係を上下を逆にすると、もう1つの音列ができ、これを半音ずつずらしていけばまた12個の音列ができる。これを反行型という(Inverse)。
さらにそれぞれを後ろから読めば12個×2の24の音列ができる(Reverse)。こうしてできた48個の音列だけを使って曲を書くと12音の作品が出来上がるのである。
最近、私は12音の曲を1曲だけだけれど作ったので、その音列表を以下に掲示する。(曲の楽譜は出版者との契約でここに載せることはできないので、ご容赦を)
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この音列は古典的な調性を感じないように作ってあるけれど、調性を感じるように作ることも可能である。以前に私が作った木管五重奏曲から、「悲歌」を例にあげておこう。上の音列ではないので、ご注意を。また、ベルクのヴァイオリン協奏曲も例にあげて良いだろう。
私の作品では音列そのものが3度の連結で出来ているため、上行と下降で長3和音、短3和音ができるようにしてある。12音が機械的で無味乾燥な音楽だという誤解に対する私のささやかな抗議をここにこめたつもりである。
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シェーンベルクが提唱した12音技法は、1つの音列から派生した48の音列のみを使用して1つの作品を作り上げるのが原則である。したがって多楽章形式の作品(ソナタ、組曲など)でも、たった1つの音列から派生した48の音列を使って作曲をする。これによって、作品は常に一定の音程関係で出来上がっていくので、曲の構造的なまとまりは完璧なものになる。

この新しい技法は瞬く間に新古典主義の新しモノ好きたちの注目の的となった。それでも皆がこれを使うようになったのは、戦後になってからである。そしてそれは音列に留まらず、音価(リズム)や音色、ディナーミクに至まで、様々な順列と組み合わせで書かれることとなる。

これはウェーベルンの音色旋律(バッハの音楽の捧げ物からの六声のリチェルカーレの編曲、あるいは交響曲Op.21など)の概念を拡大していくことから始まったと言える。そして、ウェーベルンは戦後の音楽の1つの指針とさえなったのである。

メシアンの4つのリズムの練習曲 (1949-50) の第2曲「音価と強度のモード」においてそれは提案され、大きな反響を得るに至った。トータル・セリエルという1つの技法は、ダルムシュタットに集う、若い作曲家たちの心を奪った。

以上

写真はブルンネンの波止場。
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by Schweizer_Musik | 2012-01-29 14:36 | 授業のための覚え書き
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