ついにと言うべきか、つまらない「マスコミ」のおかげですっかり問題がすり替えられてしまった宝塚線の事故についてだ。新聞記者は事故を糾弾する立場にあらず。こんな簡単なことすらわからない者が報道の現場にいるとは・・・情けなくて涙も出ない。これこそ恥を知れである。
作曲家の林光氏が「原爆小景」の作曲にあたって書いている。 曰く、 さいきん、ある書評週刊誌が募集した懸賞論文のなかに、原水爆反対のためという大義名分を免罪符にして、なんの痛みもなく被爆者の写真をかかげて歩く「運動者」たちを告発したことばがあった。私は、私の「原爆小景」のことをあらためて思い起こした。私はそのような「運動者」たちと私とはちがう、私の作品は、被爆者の引き延ばし写真のパネルをかかげて大通りを歩いているようなものではないと強く否定する内心の声をききながら、しかし浮かぬ気分であった。 こうした言葉をこの音楽に寄せる作曲家の心は、常に被爆者たちとともにあると私は思う。 大義名分を着て、JR職員に暴行を働くなど、言語道断である。このような幼稚な人間をけしかけたのが報道であったこともまた悲しい。事故と全く関係のないボーリング大会や、個人的な飲み会に至るまで報道し、企業体質だと批判するのはいかがなものだろうかと私は思っていた。 報道がなければ私たちは事実を知ることができない。しかしそれが正しければの話である。ここに報道に関わる者の使命があり、その使命を果たすことからの誇りがあるはずだ。 しかし、この裏側には、林光氏のような自戒がベースにあることが前提であるのは言うまでもない。 私は広島に数年間住んでいた。私は被爆者でもなく、原爆をテーマに音楽を書くなどというのは恐ろしくて出来そうもない話だ。膨大な悲しみや怒りを私が表現することなんて、気が遠くなる。音楽で社会参加できるのかという古典的議論も再び頭をもたげて来そうだ。少なくとも、私はノーノなどと立場を異にするし、社会が安定してこその音楽であると信じている。音楽が社会貢献するというのはあまりに私には難しい話だ。 死者を悼む音楽も空々しいように感じる。本当に死者に捧げる音楽とはもっと個人的な思いに根ざしているのではないだろうか。「その人たち(遺族)の身になって・・・」などという偽善を演じることを、私は拒否する。 原爆小景という3曲の合唱作品を書いた林光氏の才能と、その誠実さを、久しぶりに聞いて心から感じ入った次第。それに対して、読売新聞の記者を初めとして、人として恥ずかしくないのだろうか・・・。それに軽々しくJRを批判する人も・・・。そうしたインタビューをとる人ととられる人、そしてそれを放送して煽る人。そこに、「未曾有大惨事」を二度と起こさないという大義名分が錦の御旗となって、暴力がふるわれるとしたら、これほど悲しいものはない。 JRは問題を隠蔽せずに、全てを開陳し、責任の所在を明らかにすべきだ。問題をうやむやにして責任逃れするのなら、またしても大きな悲劇を引き起こしかねない。そんな機関に成り下がったとしたら、もう我々の安全は誰にあずけたらいいのかわからない。真剣に反省し、襟を正さなくてはならないのはもちろんJRである。 しかし、職員に暴行をする者に一分の理もないタダの犯罪者であることだけは間違いない。しかし情けない時代である。本当に情けない時代だ。 「水ヲクダサイ」のクラスターが突き刺さってくる・・・。
by Schweizer_Musik
| 2005-05-14 18:22
| 原稿書きの合間に
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