久しぶりにスイス・ロマンドの章を集中して書いたので、九割ほどが完成。何だ、やれば出来るじゃないかと思いたくなる今日この頃です。
で、安心して、ネットサーフィンなどをやって、色んなブログを見て回ったりしていて、ふと、思ったことがあります。 判官贔屓の私ですから、偉くなってしまうと、ちょっと皮肉っぽくとりあげてみたくなる傾向がないとは言えないまでも、なるべく音楽は虚心坦懐に聞き、どうだったかということを新鮮に考えることにしています。 私は、昔、小澤征爾が大好きでした。あっ、今でも好きです。彼の演奏会で、実にファンタスティックな体験をしたことも忘れてはいません。ただ、最近はちょっと昔のような燃え上がるものがなくなり、枯れてきたかなと思うことが多いのですが、それでも大変素晴らしい演奏が多いことは言うまでもないことです。 多くの人が指摘するように、彼の指揮が個性的でないという批判。それは明らかに当たっていないと思われます。彼のニュー・フィルハーモニアとフィリップスに録音したベートーヴェンの第九など、最も顕著な名演でありましょう。 また、同じフィリップスに入れたパリ管弦楽団とのチャイコフスキーの「悲愴」。あるいはサンフランシスコ交響楽団とのドヴォルザークの「新世界」は、どうころんでも名盤としか言いようのないものです。大きな個性は、そのリズムにあります。テンポをデフォルメしたり、異常に速いテンポをとったりという、誰でもがわかるようなアイデアを入れるような下品な解釈は彼のものではありません。私はそういう演奏家が大嫌いなのです。それが個性だと言われると、猛然と食って掛かりたくなるのです。(思わず、興奮・・・。ごめんなさい) 彼の弾力のあるテンポ感は、アンサンブルを整えるのはとても難しいことです。演奏家の自発的なテンポをとらせて合わせるわけですから。アンセルメの演奏もそうなのですが、彼のオーケストラのアンサンブルはかなり危ないものがあります。あれはオケが悪いのではないと私は思っています。 カルロス・クライバーと比べて、つまんないなんて言うのは、もちろん人それぞれであり、好き好きですから、とやかく言うようなことではないでしょう。しかし、それが斎藤秀雄氏によるメソードのせいだなどと言い始めると、これはかなり違うなと思い始めます。 指揮法で音楽が面白くなったり、つまらなくなったりするとしたら、指揮法なんてなければいいのです。斎藤秀雄のメソードは画期的でそれ以前になかったものだと言い始めると、更に明らかな誤りであると言わねばならない。 シェルヘンの指揮法をはじめとして、いくつものメソードが存在するからです。そしてそのメソード故に良い指揮者、悪い指揮者がいるとしたら、音楽教育なんて個性を殺すものだから、全て放って置くべしということにだってなりかねません。どうです?おかしな話でしょ? 基礎的な技術しかメソードでは扱えないのです。メソードで音楽性は教えられないのです。同じメソードで勉強した若杉弘氏のあのインスピレーションに満ちた演奏と、小澤征爾氏の弾力のあるリズムが同じようなものと切り捨てるのはいかがなものでしょう。 たたきという指揮の技術は、相手にどういうリズムをテンポをアクセントをアーティキュレーションを伝えるかという技術の問題です。で、その表現を決めるのはあくまで演奏家個人であることを忘れてはいないでしょうか。 若杉氏のマーラーの室内楽的な緊張感は、彼の指揮技術の確かさと共に、彼の音楽性そのものではないでしょうか。小澤征爾氏にも同じことが言えますが、彼には更に舞台での華があると思います。人を惹きつけるものがあるのです。オーラだと言う人もいますが、それはもう持って生まれたものでしょう。 こうは言っても、私は若杉弘氏を本当の尊敬しています。あのような指揮で演奏したら、奏者はうれしいだろうなと思うマーラーなんて、そうそう出来るものじゃない。そして聞いていて、本当に美しいのですから。マーラーって大音量の凄まじいオーケストレーションを思う人が多いですが、その大半は室内楽的な、デリケート極まる書法で出来ているのです。これがわかっていない指揮者はゴマンといますが、若杉弘氏の指揮からは、本物の音が、そして耳を使って積極的にアンサンブルしている奏者の姿が浮かんでくるのです。こんな指揮者、滅多にいるものじゃない!! シェルヘンの弟子で日本でも教えていたトラヴィス氏が指揮したいくつかの録音を聞いたりして最近思ったことは、シェルヘンの指揮のメソードは凄かったということです。シェルヘンはほとんど独学でした。彼は誰かについて音楽を勉強したという経験をしていないのです。なのにあれほどのメソードを作った。 斎藤秀雄氏の指揮もそうではなかったでしょうか。彼らがメソードの必要性を感じたのは、機能的に指揮をするためではなかったはずです。そんなことのためだったら、あれほどの業績を残せるはずがありません。 私も、多少の指揮を致しますが、それは必要に迫られての我流のいいところです。わかりやすいですよと言われたりもしますが、九割はお世辞に過ぎないでしょう。ちゃんと勉強しておけばよかったと思う反面、彼らのような大変な仕事にならなくて良かったと思います。 何故って?オーケストラの団員から嫌われる商売である上に、偉くなったら聴衆からも嫌われるのですから。その割には、もの凄い勉強をしないとやっていけないのですよ。スコアなんてものを毎日毎日読んで、どうやればうまくアンサンブルをまとめられるかということを毎日毎日考えて、それでいて、精神的にはあまり恵まれないのですから。 ふと、日本人のカラヤン嫌いを思い出していました。そう言えば、私も昔は生意気にそんなことを言ってましたっけ・・・。 というようなことを、ちょっと思った次第です。
by Schweizer_Musik
| 2005-06-05 21:24
| 音楽時事
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