ルッターのレクイエムのアンサンブル版を聞く。オーケストラ版と随分違った印象を受けた。しかしこのナクソス盤の演奏。合唱の発声が粗く、聞きづらい。作曲者自身のプロデュースということで聞き始めたが、やはり昔聞いた彼の自演盤が最も良い。合唱がクリアで細かい部分までわかる良い録音であるのはいいのだが。
しかし、彼のこのレクイエムはもう現代のスタンダードになりつつあるのではないだろうか。ポピュラー音楽とクラシック音楽のクロスオーバーするところに彼の音楽はある。着想はそう斬新でもないのだが、魅力的なメロディーに全てを託したような彼の音楽が、多くの人の支持を得ているというのは、必然であろう。 スーザン・ドリーのチェロ・ソロがフューチャーされた第2楽章の「深き淵より」は、合唱の量感が足りないと思う。ピッチも前半やや不安定で聞きにくい。曲が進むに連れてそうした不満は解消されていくが。 ガーシュウィンの「サマータイム」みたいな「深き淵より」で、悲しみもちょっと感傷的に聞こえるのも、旋法の選び方によるのかもしれない。 続く「ピエ・イエズス」で、魅力的なフレーズを歌うのはエリン・マナハン・トーマスというボーイ・ソプラノ。自作自演の録音よりも安定したピッチで聞かせるが、表情がやや一本調子で、敬虔な雰囲気は出ているがもう少し表情をつけても良いのでは。かなり録音の後、ピッチを人工的に合わせたように思われるが、これは想像である。 この楽章はしかし全曲の中でも最も魅力的だ。 第4楽章はサンクトゥス。打楽器のキラキラした金物の響きを聞いていると、なんだかクリスマスの音楽みたい。クリスマスにレクイエムはちょっとどうかと思うが、連想してしまった。しかし、ここでのテノールあたりのピッチの揺れはちょっと厳しいものがある。 第5楽章のアニュス・デイの厳粛なイメージはとても良いが、ここでは少年たちのソプラノ・パートが厳粛に歌おうとしすぎて力が入り、ピッチがぶれてしまっている。合唱は生もの。それも少年合唱は難しいものだ。この曲はア・カペラの部分も多く、半音階的な部分も多く、そうした不安を抱かせない演奏でないと厳しい。 第6楽章「神は良い羊飼い」は、ちょっとカントルーブの「オーベルニュの歌」のバイレロみたい。クリストファー・ホーカーという人がオーボエのオブリガートを吹いているが、なかなか味わいがあってよろしい。 そして最後の楽章の「聖体拝領唱」では再びエリン・マナハン・トーマスのボーイ・ソプラノが出てくる。この最後の楽章では特にオルガンが活躍する。トーマス君?の歌は前の「ピエ・イエズス」の印象とそう変わらない。表情はあまりないのだが、ピッチだけはびっくりするほど正確。うーん、やっぱり使っているな・・・。 他にオルガンと合唱のためのアンセムなどがいくつか収められている。フルートのオブリガートと合唱のための「音楽は神の贈り物」など面白い曲だと思った。他、どれも親しみやすい旋法に基づく作品ばかりであるが、ちょっと通して聞くと同工異曲の感もなきにしもあらずである。 オルガン・ソロのための作品も収められていて、七拍子のためのトッカータなんて、昔のデイブ・ブルーベックの変拍子ジャズを現代のパイプ・オルガンでやっているみたいで、ちょっと変な感じだった。 演奏はティモシー・ブラウン指揮ケンブリッジ・クレア・カレッジ聖歌隊,シティ・オブ・ロンドン・シンフォニアのメンバー。ニコラス・リマー他のオルガンである。 NAXOS.8.551730
by Schweizer_Musik
| 2005-06-09 11:25
| CD試聴記
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