ジュリーニのことを思い、以前聞きくらべをした時、つい聞きそびれていたモーツァルトの40番とジュピターを聞き返してみた。
彼は1960年代に確かこの2曲を録音していたはずだが、そちらも評判は良かったようだが、私は未聴のままである。で、この録音。結論からすれば悠然としたテンポで進める横綱相撲のような演奏である。録音されたのは1991年。このちょっと前に、ウィーン・フィルとブラームスの第1番の超がつく名演をなしとげたジュリーニだが、このモーツァルトもまたスケールの大きさというか、構えの大きな演奏であると言えよう。 第2版のクラリネット版による演奏であるが、それと彼のテンポなどから醸し出される悠揚迫らざるという感ある解釈と、柔軟な響きは、もう名人芸というべきものだ。 全体にレガートを主体とした演奏で、硬さやキビキビとしてイメージとは全く対照的だが、それ故に緩徐楽章の味わいの深さは申し分のないものだ。 同じイタリア出身のトスカニーニとここまで対照的な演奏とは、なかなかに面白いものだ。トスカニーニはファシストに対する憎悪と嫌悪によって戦争中、アメリカに亡命していたために、長くスカラ座の指揮台に立たなかったが、ジュリーニもまた1956年にスカラ座を辞任してから後、長くこのイタリア屈指のオーケストラの前に立たなかった。 1977年にスカラ座に再びジュリーニが戻ってきた時の人々の熱狂ぶりは、今も語りぐさとなっている。 考えてみればちょっと似たところもないわけではないのだが、彼はトスカニーニと全く違った演奏を目指している。 この40番はその典型であろう。彼はレガートに演奏し、強弱をあまり強調しない。このタイプの解釈をする指揮者はかなり居るが、ジュリーニはそうしたタイプの中でもっとも高い完成度を誇っている。 拍子の取り方も独特で、一拍目を重く、拍子を一種の回転運動のようにとらえたテンポは、ゆったりとしていても結構正確にながれる。と共に、一拍目の重さは、かなり古風な感覚をジュリーニが持っていたことを示している。 第4楽章でもそうした傾向は全く変わることはない。 温厚な人柄であったというが、私は、今は亡き渡邊曉雄氏のイメージといつの間にか重なってしまっている。 このCD。初出の時は確か組み合わせは違ったと思うが、この盤ではジュピターと組み合わせている。 ジュピターもゆったりとしたテンポ(私の持ってる中でも最も遅い)で、全く解釈の基本姿勢は変わらない。ユニーク極まりないジュピターだ。ただ、このあたりになるともう意図したテンポ゛か出せなくなっているとも感じられる。昔の録音はもっと違ったのではないだろうか? いずれにせよ、この偉大なマエストロを一時偲び、久しぶりでモーツァルトの40番を夢中になって聞いた。あまりにユニークな演奏であり、また立派な演奏であるので、***(注目)としたい。 Classical/SRCR 8634
by Schweizer_Musik
| 2005-06-17 23:33
| CD試聴記
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