ドビュッシーの前奏曲集第一巻の「亜麻色の髪の乙女」は、ドビュッシーの音楽の中でも最も親しまれている作品ではないだろうか。歌謡曲のタイトルにまで使われたこの魅力的なタイトルもその原因の一つ・・・かも知れない。亜麻色とは良い響きですねぇ。
そんな妄想はともかく(笑)、この曲のテーマはどんな構造なのでしょうか? まず無伴奏の単音でテーマが始まります。このテーマは変ト長調に六度音を付加した分散和音のメロディーに変ト長調のスケールがくっついた形で出来ています。 大変印象的な出だしですね。名曲というものの条件にはいくつかのファクターがあると思いますが、この印象的な出だしを持っていることと言うのは、大きいと思います。ベートーヴェンなんてこの印象に残る出だしのオン・パレード。よく思いついたものだ・・・。 このテーマにコラール風のレスポンスが続きます。これはトニックの和音の仲間であるI度、III度、VI度の和音を中心にしてちょっと長調とも短調とも言えない響きを持っていますが、これに続いてピカルディーの終止風の長三和音が続くのです。 このちょっと中世風の響きは、最初の分散和音が5音音階風の響きを持っていることからも、うまく対応していると思われます。 続いて、最初の単音で出てきたテーマがもう一度出てきて確保されます。 ここでは和音がついていますが、変ハ長調のドミナント7と変ニ長調のドミナント7がつけられていて、古典的な和声機能を無視して和音がつけられています。ちょっと不思議な感じですね。和音だけ取り出して聞くとさらによくわかるはずです。 これに続いて、長いスケールが続き、この曲が分散和音(5音音階)とスケールの対比で構成されていることを示しています。 小さなカデンツの後、続く部分には5音音階による上行音型と下降のスケールがこの曲を象徴しています。そしてこの部分を発展させて、下属調へ転調して盛り上がる部分が続く。 下属調に一時転調をした後、三度上の変ホ長調にすぐに転調していくのですから、ここは大変流動的であります。これで最初の部分が終わり、中間部へと入るのです。 中間部はこの終止した調である変ホ長調を確保するところから始まります。 変ホ長調を確保する時にはペンタトニック・スケールによる上行音形に続いて、転調して下降のヘキサトニック・スケール(6音音階)で対応しています。が、この部分、ペンタトニックの主題の最初の部分と後半のスケールとが縮小されたものという考え方も成り立つのではないかとも私は考えています。 この後にテーマの分散和音をそのまま別のリズムにした推移が続き、最初のテーマに戻ります。最初のメロディーと比べて下さい。そのままリズムを変えただけということがおわかりになられることでしょう。 和音はメロディーの分散和音と同じGes-B-Des-Esの6度音を付加した変ト長調の主和音です。それに最後ドミナントの和音が出てきてカデンツとなるのですが、このドミナントはまるでポピュラー音楽のような使い方でちょっと驚いてしまいそうですね。 そして普通なら変ト長調の主和音に解決するのですが、これがどっこいそうはいかず、二度下のサブドミナントに行くのです。ちょっと擬終止のような効果がある部分ですが、これが大変効果的で、このサブドミナントの上に最初のテーマがオクターブ上に移されて再現します。 後半のスケールはリズム的に倍になり、ゆるやかになっていて、エンディングへの見事なつなぎになっています。リタルダントを音符にしたような感じですね。 最後の数小節のペンタトニックのスケールは、名残惜しげにというより、ほのかな艶やかさを感じるのは、私の妄想のせいでしょうか?
by Schweizer_Musik
| 2005-06-27 14:10
| 授業のための覚え書き
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