朝比奈隆指揮大阪フィルによるベートーヴェンの「英雄」1977年ライブ
昔、大阪フィルが欧州公演を行い、その帰国コンサートを大阪フェスティバル・ホールで聞いたこの曲の演奏が最高だった。と言っても、当時は高校生だったかであるから、あまり大したことは憶えてはいない。またこの演奏はその時の演奏でもないのだが、何故か、私の記憶にこの演奏はピッタリはまってくるので、朝比奈隆のベートーヴェンというとこの曲を取り出す。
大変大らかな演奏で、フルトヴェングラーのように強烈な集中力と果てしないスケールでやる「英雄」と違う世界のものに思っている。
テンポは総じて遅めだ。ジンマンやガーディナー、ブリュッヘンといった新しい様式の演奏では、私には極端な速さにしか聞こえず、あんなに急いでどうするのと思ってしまうが、この朝比奈隆の演奏はそうしたこととは無縁だ。バランスも大変大らかという前言の通り、結構アバウトなところも多い(特に第1楽章の提示部)。
しかし、そのアバウトさが、ちょっとブルックナー風ベートーヴェン(これもまた変な言葉だなぁ)の味わいを醸しだし、何とも言えないユニークな演奏に仕上がっているのも事実である。
第1楽章は繰り返しをしっかりしていてテンポが遅いので、20分近くかかっている。私の持っているCDの中では最長の第1楽章である。古楽器でもフランス・ブリュッヘンはそう速いテンポをとっておらず、編成と奏法がピリオド楽器によっているというだけで、解釈は伝統的なものである。
これが、ガーディナーあたりになると5分ちかくも短縮してしまうのだから凄まじい。新しい「英雄」である。ただ、古いスタイルで(フルトヴェングラーの通称「ウラニアのエロイカ」で)刷り込まれた頑固な頭には、こういう方法があるということはわかるにしても、やはり拒絶感が残る。
速いテンポをとる演奏は昔からあった。フリッツ・ライナー指揮シカゴ交響楽団もそうだし、シェルヘンがスイス、ルガーノのオケとのハチャメチャな演奏もある。確かの気合いと勢いで聞かせてしまうところはあるが、冒頭のチェロのメロディーなど耳を疑う音程のズレで、情けなくなってしまう。テンポを速めてぐいぐい引っ張って行かれるので、ついつい聞いてしまう熱気のようなものはあるが、あれではスイス・イタリア語放送管弦楽団は下手な二流オケと思われてしまっても仕方ないだろう。(絶対にさんなことはないのだが・・・)
さて、朝比奈隆の演奏に戻ろう。第1楽章の雄大さはおそらく大らかさから来ていることは間違いない。しかし、冗長に感じないのは要所要所でテンポを引き締め、音楽の前進力を決して失わない朝比奈隆の職人芸が生きているからだと思う。
この我が国の不世出の巨匠の真価はこうした古典作品に対する見事な技にあったと私は思う。特に良いのはゆったりとしたテンポでも絶対にダレないテンポ感だ。
第2楽章はそうした朝比奈隆の真骨頂が聞ける。ただ大フィルのアンサンブルに結構ほころびが・・・。気に掛からないと言えば嘘になる。しかしライブ故のミスはちょっと横に置いておくことにして、呼吸の深さはさすがだ。フルトヴェングラーのウラニアのエロイカと比べようなどとは思わないが、(全く違う世界のものだから・・・)イ長調の幸福な挿入句が終わり、冒頭の葬送のテーマが展開された後のフガートは、やはり感動してしまった。
オケの響きに無理がないのだ。自然に鳴り出したような響きがここにはある。1977年当時の大フィル。私の通っていた大学の先生も随分在籍しておられた。あれは誰々・・・と思い出しながら聞いていた。この辺りはかなり個人的な趣味に沈没していた。
第3楽章もいいのだが、私が好きだった大フィルの木管が活躍する終楽章は心から楽しんだ。(当時、私は「大フィル友の会の会員だった・・・)ちょっとしたミスはこの楽章でも色々ある。この時代はまだ大らかさが残っていたのだろう。トルコ風の変奏あたりの木管のちょっとしたパッセージに他では聞けない音色にうっとりする。あのオーボエは確か・・・。

このCDにはエグモント序曲が入っている。確かフェスでこの演奏を聞いていたように思う。この演奏でこのエグモント序曲をはじめて聞いたのではなかったか?ものすごく感動した印象がある。でこのゆっくりとした朝比奈隆の演奏は筋肉隆々たる他の演奏に対して、ロマンの香り豊かな名演だと思う。アンサンブルの乱れはほとんどない。(当たり前!!)決して大フィルのアンサンブルは下手ではないのだ!!。
ヨーロッパ公演での「英雄」とフロリアンでのブルックナーの第七番の交響曲のライブはレコードで持っていた。あれは本当に立派な演奏だった・・・。CDになっているのだろうか。なっているはずだが、あまりに聞き込んだが故に、ちょっと買いそびれたままになっている。で、何故かこの「英雄」だけが我が家にあったので、久しぶりに取り出して聞いてみた次第だ。
ということで、このあまりに個人的な感想に評価などつけられませんので、無印といたします。でも演奏が悪いからではありません。念のため・・・。

VICTOR/VDC-5528
by Schweizer_Musik | 2005-07-03 11:56 | CD試聴記
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