クライネフのショパンのスケルツォとバラード *****(特薦)
mp3に変換されることで、多少キンキンいう金属質の音になっているのだが、この演奏はそういうハンディを忘れさせる凄さ!!
クライネフというピアニストはプロコフィエフのピアノ協奏曲全集で聞いたことがあるけれど、こんなに良いピアニストだとはついぞ気がつかなかった。馬鹿としか言いようがない。この難曲をこれほど軽々と弾いのける技量を持ちながら、音楽に奉仕しつくしている。
クライネフは一種の天才であろう。スケルツォの第1番、冒頭の挑みかかるが如きテーマを、不足のない緊張感と集中力で惹きつけておきながら、さわやかな余韻すら感じさせてくれる。聞く者にまで決して汗をかかせない、それでいて不足を絶対に感じさせない。これは一体何なのだろう。
第2番のスケルツォでも同じことを感じた。冒頭の緊張感は凄まじいものであるのだが、現代風に聞きやすく客席が用意されている感じなのだ。タッチは見事に粒が揃っていて美しい!!過剰な表現はいささかもなく、ツボを押さえた解釈で、全く不満がない。
そう、過剰な表現にこのところ辟易とすることが多いだけに、この無理のない表現は実に心地よいものだ。トリオのゆったりとした表現も研ぎ澄まされていて決してこれみよがしでないから、冷静に楽しめる。これらの曲をたくさんたくさん聞いてきた人にも、そしてはじめて聞く人にも、安心して聞いてご覧なさい。きっと満足するはずだから、と言っても苦情は滅多に来ないだろうと私は確信する。そんな演奏。
ミケランジェリ以来、この曲で心ゆくまで楽しめた。クライネフに感謝!!
第3番がさりげなく始まる。そして次第にスケールを大きくしていく様はまさに圧巻。冒頭から精一杯ですという入れ込んだ演奏が多い中で、これほど余裕綽々で演奏されると、逆に空恐ろしいほどの奏者の巨大な世界を感じさせてしまう。マルタ・アルゲリッチの絶演をお好きな方に敢えて聞いてみられてはとお薦めしたくなってくる。弾むリズム、そして息の長さ・・・。彼はただ上手いピアニストではない。天才だ。
音色の変化の多彩さもまた凄い!!こんな音楽、そうそう聞けませんよ!
あまり人気があるとは言えない第4番もこの人の手にかかると何て良い曲なのだろう。ショパンにしては珍しくホルン5度を使ったテーマが、なんてチャーミングなんだろう。
4曲のバラードもまた名演ばかり。第1番の音の団子にならない交通整理の行き届いたパッセージは特に魅力的である。私の大好きな第2番にも満足した。どうしてこんなところを強調するのだろうと不思議に思わせられる録音も少なくない昨今、このように真っ直ぐにこの曲に正対した演奏は稀だと思う。抒情的な表現の中から青白い炎が燃え上がり次第に焼き尽くしていくような幻想を私は抱いた。この曲にこのようなイメージを持ったのははじめてアルフレッド・コルトーの演奏を聞いた時以来である。もちろんコルトーの演奏とは全くことなるのは言うまでもないが。
第3番も第4番も全く素晴らしい演奏。どうしてメジャー・レーベルはこの演奏を出さないのだろう。私なら絶対買う!でももうDLされてしまっているからだめなのかなぁ。
良い演奏ですよ!
前に書いたフランクなどと同じClassical Music Archivesからログインして(一年間で2500円ほどでした)、演奏家別のインデックスからピアノのクライネフのところを探すとこの演奏が見つかります。
by Schweizer_Musik | 2005-07-13 07:41 | CD試聴記
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