B級?否!A級!名演奏家列伝 -7- ラインスドルフ
エーリヒ・ラインスドルフについて。1912年2月4日にウィーンで生まれたユダヤ系ドイツ人指揮者ラインスドルフは、1993年9月11日にチューリッヒで亡くなったのだが、職人的とか、色々言われた指揮者ではあったが、本当に知られざる指揮者の一人であると言って良いのではないだろうか。
彼の誤解の第一歩は、シャルル・ミュンシュの後任としてボストン交響楽団の音楽監督に就任したことから始まっていると思う。ラインスドルフは、優秀なオーケストラのトレーナーとして、極めて独特のボストン交響楽団のアンサンブルを整えて行ったのだが、それが逆に彼の特徴をぼかしてしまった。
ミュンシュの個性に埋没してしまったというのが、私の彼のイメージだ。しかし、彼が凡庸な指揮者であったはずはなく、優れた演奏を数多く行った名指揮者であったことは言うまでもない。ボストン交響楽団と録音したベートーヴェンの全集なども、細かなアゴーギクを一寸の乱れもなく行い伸びやかな歌を聞かせる、極めて個性的な演奏であったが、それが受け入れられたかどうか・・・。
ベートーヴェンやモーツァルトの全集などもあった。彼のモーツァルトもいくつか聞いたが、ややあっさりしすぎていて、当時としては情感が不足しているように思われたのかも知れない。今なら颯爽として気持ちの良い演奏だということになるのだろうが、そういう演奏なら今はたくさんある。なかなかラインスドルフでなければというものがここでもとらえにくいようだ。
私はそんな中ではベートーヴェンの「田園」をお薦めしたい。音楽に合わせて大きくテンポを変えていく古いスタイルでありながら、アチェレランドやリタルダントをあまり行わないで鋭角的なテンポが変わっていく彼の古典音楽の演奏の特徴がよく出ているからである。
しかし、私の彼の演奏で特に高く評価するのは、やはりマーラーやブルックナーの演奏であり、バルトークのオケ・コンの見事な演奏などである。特にマーラーの「巨人」や第6番「悲劇的」は今持って名演として高く評価できるのではないだろうか。これらの演奏はCD時代になって再発売されたので耳にされた方も多いようだ。
ブルックナーは、実は私はRCAの廉価盤のシリーズで彼の指揮する「ロマンチック」を聞いたのがブルックナー入門だったので、愛着があるだけなのかも知れないが、良い演奏だったと思う。
そうしたこともあってか、ラインスドルフは最近は少し評価があがってきたように思う。ライブも出てきて、なかなか良い録音が聞かれるようになった。彼がユダヤ人であるということもあるのか、マーラーとの相性はとても良いし、大きなデフォルメもなくスコアに誠実に対しているように思えて、好印象を受けているようだ。
また、リヒテルやギレリス、ルービンシュタインや若いイツァーク・パールマン(まだEMIに録音をはじめる前)との協奏曲録音でも知られている。中でもルービンシュタインともベートーヴェンのピアノ協奏曲全集は、彼の業績の中でも忘れがたい業績の一つであろう。
ウィーン交響楽団との録音もいくつか聞いているが、彼が故郷で暖かく迎えられていた様子が何となく嬉しく思ったりもしている。だが、やはり彼の録音として一枚だけあげるなら、シェーンベルクの「ワルシャワの生き残り」とベートーヴェンの第9を組み合わせたLPをあげたい。これは確か彼がボストン交響楽団を退任する時のプログラムであった。人類の愛と平和を歌い上げるベートーヴェンの音楽に、シェーンベルクの極めて厳しいナチスによるユダヤ人弾圧への抗議の音楽を組み合わせたものだった。政治的意図まで感じさせるほどのプログラムを彼が何故ボストン交響楽団を去るに当たって組んだのか、私は事実しか知らないので踏み込んだ勝手な解釈は避けようと思うが、この地味(と思われている)指揮者が、意外なほど芯の強い演奏をすることのルーツを見たような気がするのである。
ドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」の管弦楽組曲版などいくつかの編曲も知られており、それらは一般的なレパートリーにまでなりつつあるほどでもある。作曲家ラインスドルフがどういう作品を作っていたのかも興味をひく。と同時に、彼が数多くのオペラのレコードも録音しており、メトロポリタン歌劇場の指揮者としても1940年代から活躍していたことも忘れてはならない。
リヒャルト・シュトラウスの「サロメ」や「アリアドネ」などからコルンゴルドの「死の都」、あるいはワーグナー、ヴェルディ、プッチーニとそのレパートリーは大変広いものであったし、その録音によってオペラを聴き始めた方も多くおられることだろう。それなりに復刻はされているが、その全容がわかるとはとても言えないのがやはり現状のようだ。
彼はまだまだ、未知の部分を秘めているようだ。
by Schweizer_Musik | 2005-08-22 10:59 | 過去の演奏家
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