本田美奈子 アヴェ・マリア ****(推薦)
本田美奈子さんが亡くなられた。素晴らしい歌手だった。クラシック、ポピュラーの枠など関係なく美しかった。「アヴェ・マリア」というアルバムが彼女のクラシック系の音楽を録音した最初のアルバムだったと思う。井上鑑氏のアレンジによるそれは、私の好みとは違う。シンセサイザーのバックが主張しすぎているように思われるからだが、それを押しのけて彼女の存在感は素晴らしいものがある。
もともと、ミュージカル歌手として「ミス・サイゴン」などで高い評価を得ていた彼女だけに、タイトル曲であるカッチーニの「アヴェ・マリア」で聞かせる息の長いフレーズには強い説得力を感じさせられた。アバンギャルドなバックは少々煩わしいが・・・。
プッチーニの歌劇「ジャンニ・スキッキ」の中でラウレッタの歌う「私のお父さん」は岩谷時子さんの作詞のようで(ダウンロードなので作者も何もわからん・・・これはなんとかしてもらいたいものだ!)あるが、原詩とは関係ないようだ。甘い雰囲気はよくだしているが、日本語で歌われるとちょっと興ざめなのは、イタリア語の「オー・ビオ・バンビーノ」が耳に染み付いてしまっているからか。
サラ・ブライトマンの歌ったタイム・トゥー・セイ・グッバイは英語で歌っている。サルトリの書いたこのメロディーを一時は聞かない日、テレビやラジオで流れていない日はなかったほどだ。おかげで、サラ・ブライトマンの歌は耳にこびりついて離れない。彼女の歌に比べると本田美奈子の歌は更に線が細い。しかし、こんなタイム・トゥー・セイ・グッバイも良いと思う。アレンジは少々野暮ったい。井上鑑氏は少し力が入りすぎているみたいに思う。
ギター一本を中心にしたドビュッシーの「美しい夕暮れ」は、昔バーバラ・ストライザンドが歌ったもの以来の出来だ。歌詞はブルージェの原詩とあまり関わりがなさそうだが・・・。私はできればフランス語で聞きたかった。このメロディーには明らかにフランス語が響きとして合っているのだ。日本語では少々固すぎるように思われる。
ラフマニノフの「ヴォカリーズ」は木管を中心としたアンサンブルを想定した伴奏で、ユニーク。弦楽を使いたくなるだろうに・・・。息のもの凄く長い、歌としてはとても無理なほどのフレーズなのに、彼女は全く見事に歌いきっている。最後はちょっと辛そうに聞こえてしまうが、これは大健闘と言ってよい。ポピュラーだけを歌ってきた人にこの曲はかなり酷であったはずだ。
したがって、グリーンスリーヴスは余裕で歌っているように聞こえる。ギターなどの減衰音系のアンサンブルでエキゾチックなサウンドを醸し出しているあたりも好感を持った。
ジュピターは平原綾香とは全く違う。あえて言えば本田美奈子のジュピターはポピュラー音楽としては直球だと思う。伴奏も含めてそう感じさせられる。平原綾香は変化球だ。そのユニークさ故に多くの人の印象に残った。とても良いアイデアだったと思う。本田の方が少し真っ直ぐすぎたか・・・。
ヘンデルのオペラ「リナルド」の中の「私を泣かしてください」は原曲のイメージに比較的近い弦楽のアレンジとなっているが、クラシック音楽のそれとは大分違う弦の感触にちょっととまどう人も多いかもしれない。しかし、カッチーニと言い、このヘンデルと言い、ちょっとひねった選曲は素晴らしい。
フォーレのシチリアーノは箏が使われていて、これがなかなかエキゾチックで良い。また、フルート演奏で知られるこの曲を歌でやろうとは思わなかった。なかなか良いアイデアだ。
「ニュー・シネマ・パラダイス」もこうして日本語の歌で聞くとは思っていなかっただけに、新鮮に思われたし、格調も高く、良いアレンジだし本田の歌も素晴らしい。ただ歌詞が聞き取りにくいところがある。発声がクラシック風(ベル・カントに近い均等な発音)になればなるほど日本語が聞き取りにくくなるというジレンマに彼女もひっかかっているようだ。クラシック風の発声で歌うポピュラー・ナンバーが何故あれほど聞きにくいかは、日本語の発音の特徴と関係している。
私は究極のところ、日本語で歌うのであれば美空ひばりが一つの理想像だったように考えている。スタイルの問題は色々あるが、彼女ほど日本語が美しく聞こえた歌手はいない。
さて、本田美奈子に戻ろう。マスネのタイスの瞑想曲である。とんでもない音域の広さを一人の歌い手がどう処理するのだろうと、興味本位で聞き始めて引き込まれてしまった。オクターブを実に上手く、自然に変化させて処理している。なるほど!勉強になりました!!
アメイジング・グレイスは私には選曲ミスと思われた。この歌が潜在的に要求しているスケールの大きさを本田美奈子の線の細い歌に要求すること自体が無理だ。無いものねだりをしているように思われてならなかった。抒情的にアレンジすればするほど、ゴスペルの深い祈りからかけ離れていくようで、この曲は私の愛聴盤になりそうもない。
最後のベラ・ノッテは、ペギー・リー&ソニー・バークの作った映画「わんわん物語」の中に挿入歌。ピアノだけの伴奏となっているのが良い。本田美奈子の歌が、本格的な存在感をもっているだけに、伴奏が饒舌である必要がなく、かえって饒舌すぎで本田の歌の良さを消してしまっているようなところがあるからだ。

しかし、この歌声も永遠に消えてしまったとは、あまりに惜しい人を亡くしたものだ。合掌。

iTuneでダウンロードしたもの。
by Schweizer_Musik | 2005-11-07 01:14 | CD試聴記
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