バーバーの弦楽のためのアダージョ考
この曲はもともと弦楽四重奏曲の緩徐楽章として作曲された。彼が何故これを弦楽合奏にアレンジをしたのかは知らないが、とても上手くアレンジされていて、弦楽四重奏の書き方とコンバスの入った弦楽合奏の書き方の違いを教える際の、とても良い教本になってくれている。
元来の作品は、第1楽章と第3楽章が同じ素材を第1主題としていて、この緩徐楽章もその第1楽章の第1主題から派生してできたものだった。
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それはともかく、弦楽のためのアダージョはアメリカの大統領が亡くなった時に演奏されるなど(たしかこれのためにアレンジされたようにうっすらと記憶しているのだが…)したこともあり、ポピュラーな人気を誇っている。特にハリウッドの戦争映画などに使われたことから、多くの人が知る作品であろう。

曲は概ね三部形式で作られていると考えられる。三部形式と言っても、ロマン派の作品のように中間部が対照的に作られているのではなく、ほぼ提示部・展開部・再現部という形に分けることができるだろう。実にわかりやすいし、何度も同じテーマが繰り返されるので一度聞けばテーマを憶えてしまう。このわかりやすさ、憶えやすさがこの曲の最大の強みだ。
ロマン派の音楽で、シューマンのトロイメライのような作りと言えばいいのだろうか。あれも転調を繰り返しながら単一の主題が微妙な変化を受けながら繰り返す音楽である。これも同じ形で出来ている。ではテーマを見てみよう。
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このテーマは二部構成で出来ている。即ち、前半が上行型、後半が概ね下降型というわけである。そしてほとんどが順次進行で出来ていることもこの主題の特徴である。
だから、続いて繰り返された時に5度の跳躍がメロディーに加えられ、そのエコーが更にオクターブの跳躍となって、大きな対比が生まれる。
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上の楽譜の4小節目にその跳躍が聞かれるが、この繰り返しは前半だけでこの跳躍でCes音が出てきて転調し、ヴィオラにテーマが移って繰り返される。
続いて、このパターンを今度はヴィオラからヴァイオリン1に移る形にパートを入れ替えて繰り返す。
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この繰り返しには変化が加えられていることと、跳躍のエコーが10度に拡大していること、ヴァイオリンの対旋律も主題から作られていることなどが注目に値する。

続いて第2部である。
第2部では、メロディーがヴィオラからチェロに移る。バスはヴィオラで、ハーモニーをヴァイオリンに宛てられている。コンバスはあえてここでは外されていて、再現の直前まで、コンバスのない響きの支点が高くなっている。
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これがストレッタによって主題が処理され、急激にピアニシモからフォルテへと向かう。その時の低音はカットされ、全てが高音にもっていくことで、大変特徴的な響きが生まれる。このあたりがこの作品のユニークな点で、フォルテシモに向かう時、低音を分厚くしていく方が、ダイナミックな印象を与えやすいはずなのに、バーバーは全く逆をやって効果を得ている。
切迫部のストレッタにも注目すること。古典的なクライマックスの作り方であるが、見事につぼにはまっていて、効果絶大だ。
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クライマックスの最高潮で唯一の変ロ短調の主和音が鳴り響く。この曲のただ一つの主和音である。
このクライマックスの後、音楽は久しぶりにコンバスが入り、バスの音域が広がったところでピアニシモに音量が落とされ、急速に音楽が静まっていくと、ゲネラルパウゼをはさんで、第3部に入る。

第3部は主題を前半・後半をヴァイオリンとビオラのオクターブ・ユニゾンで一度演奏して、後はただ部分を二度、やってエンディングとしているに過ぎない。極めてあっけない終わり方だが、これが弦楽四重奏の第2楽章として書かれたことを思えば、納得できる。実際、この後フィナーレが鳴り響くのだから。
とりあえず、その部分を次にあげておく。
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良い演奏は多い。アントニオ・ヤニグロが演奏した、古いアナログ録音は史上最速ではないかと思うが、あまり遅すぎないのが私の好みで、古いライブ録音で恐縮なのだが、グィド・カンテルリが1955年3月27日にニョーヨーク・フィルを指揮したもの(私が持っているのはAS disc/AS 515)が良かった。ただノイズも多く、一般的でもないので、マリナー指揮アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズの1975年10月ロンドンでの録音(LONDON/F35L-50480)が良い。
バーンスタインの情熱的な演奏は新旧ともに弦のボウイングが荒っぽく感じられて、私の好みに合わないが、あの壮絶なエネルギーはどっしりとした重いものを感じさせずにはいない。
若干、守りに入ったかとも思われるネーメ・ヤルヴィがデトロイト交響楽団を指揮した一枚は、美しいのだが、今ひとつ曲のエモーションが伝わって来ないうらみが残る。
その点、トーマス・シッパース指揮ニューヨーク・フィルの1965年2月2日録音のバーバー管弦楽曲集はその他の曲の演奏も良く、広く薦められるものだが、若干演奏ノイズが気にならないでもない。(SONY/MHK 62837)
レナード・スラトキン指揮のセントルイス交響楽団の録音は弦の響きに魅力がない。曲が曲だけに弦の美しさが命だ。その点、テンポの重さが今ひとつなのだが、アンドルー・シェンク指揮ロンドン交響楽団は総合点でマリナーに一歩及ばないものの、なかなかに素晴らしい。ロンドン交響楽団の威力だろうし、弦楽合奏が盛んなイギリスらしい。(ASV/ASV-39)
他にも色々探していたら出てきたが、まぁこんなところ。総合点でマリナー、ついでシェンクとシッパーズか。エモーショナルなバーンスタインもこういった演奏が好きな人にはたまらないだろう。
by Schweizer_Musik | 2006-02-25 00:50 | 授業のための覚え書き
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