モードによる作曲法について(1)
モード作法について
【概論】
モードとはファッションの話ではなく音楽では音階を指す。
音階で最もポピュラーなのは次の二つの音階であろう。長音階と短音階である。
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この音階の最初の音が主音となり、5番目の音が属音、そして4番目の音が下属音となる。主音の音高を変えることによっていろんな調性が作られる。
こんな楽典の初歩のような話を持ち出したのは、この二つの長音階、短音階も実は旋法でもあるからである。すなわち長音階がイオニア旋法であり、自然短音階エオリア旋法である。今日では旋法とはずいぶん異なる使い方をしているが、エオリア旋法については近代以後もずいぶん使われている。耳慣れない名前かも知れないが、これは古代ギリシャで使われていた音階がローマに伝わり、教会音楽の中で今日に伝わったとされている。
グレゴリオ聖歌として今日に伝わっている音楽の多くは、これらの旋法によっているのだが、ルネサンス以前には普通に使われていたこうした旋法はバロック以後の二百年ほどの間、ほぼ長音階と短音階の二つだけ使われることとなった。
ベートーヴェンがリディア旋法の弦楽四重奏曲で使ったりという例外はあったが、モーツァルトやハイドン、バッハ、そしてそのベートーヴェンもこの二つの音階をもっぱら使い続けた。その結果、私たちもそれらの音階ばかりに親しむこととなったのだった。

では、一般的に使われる教会旋法を次に紹介しておこう。二段になっているが、下段の方は、比較のために全てC音からはじまる音階に直したものである。
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【前史】
エオリア旋法は自然的短音階であり、民謡などでごく一般的に聞かれる音階である。メンデルスゾーンが交響曲「イタリア」の第2楽章でこの旋法をメンデルスゾーン流に使いこなしている。
しかし、まだ旋法独特のエキゾチックな響きが現れているというよりも、ちょっとした新鮮さを味わわせてくれるといったものである。しかし、こうした発想も、メンデルスゾーンがキリスト教音楽によく通じていたことも関係していると思われる。聖歌を作品のモチーフにすることなどもあったほどだから、こうした旋法に対しても柔軟なセンスを発揮している。
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しかし旋法は教会だけではない。民族的な音楽にも非常によく使われている。例えば、ポーランドなどの音楽ではリディアがよく聞かれるし、スペインではフリギアが比較的よく聞かれる。
民族的な音楽を志向していたドヴォルザークが、作品の中で旋法をよく使ったのも当然のことかも知れない。
次のメロディーは有名な「新世界」交響曲の終楽章の主題であるが、E音を主音とするエオリア旋法で書かれている。この作品にかぎらず、ドヴォルザークはエオリア旋法などをたいよく使っていた。
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ブラームスも第四交響曲の緩徐楽章でフリギア旋法をブラームス流に解釈して使っている(ということになっている)。しかし、私にはハ長調で始まってホ長調に共通音を使って転調したようにしか聞こえない。
もっとわかりやすい例がいいだろう。ならば、ロシア五人組の中でも最も天分に恵まれた作曲家ムソルグスキーの例をあげておこう。ドヴォルザークの「新世界」(1893)よりも15年も前に書かれた、歌劇「ボリス・ゴドゥノフ」の中で彼は、リディア旋法によるPolonaiseを披露している。
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実際にリディア旋法はポーランドを中心としたMazurkaなどの民族的な音楽によく使われていた旋法でもあるから、これをムソルグスキーは選んだのだろう。
フォーレの先生でもあったサン=サーンスは保守的な作風であったが、ドリア旋法を使って「ライオンの行進」という曲を書いている。
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当然、ドビュッシーはこうした新しい音階に対してごく初期の段階で取り入れ、自分のものとしていたのは言うまでもない。次のあげるのは弦楽四重奏曲の第1楽章の主題であるが、これは1893年に書かれた曲で、ドビュッシーはフリギア旋法を使って第一主題を書いている。
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こうした旋法は、ワーグナーから流れ出した半音階主義に対するアンチテーゼとして急速に勢いを増してきたのだった。まもなく二十世紀に入るところであった。(この稿、続く)
by Schweizer_Musik | 2006-05-28 10:56 | 授業のための覚え書き
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