モードによる作曲法について(2)
ドリア旋法というのは、モードで作る際、最もやりやすいものだと言えよう。だから、ポピュラー音楽でもこれはよく使われる。特に1960年代後半から70年代にはやたらと使われた。
「朝日のあたる家」という曲を例にあげよう。
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この曲は、フランス軍による統治時代のニューオリンズに伝わった古い民謡がもとだそうで、ブルースの古典とも言われている曲。ロッカ・バラードのリズムにのせてアニマルズが1964年に大ヒットをとばした曲だ。この曲はメロディーにドリア旋法の響きはないが、2小節目のGのコードの使用にドリア旋法特有の響きが聞かれる。
こうした民謡におけるドリア旋法の使用で有名なのは、次の曲だろう。
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スコットランド民謡のこの曲は、ヴォーン=ウィリアムズの作品のテーマに使われた。他にも映画の主題曲に使われたり、様々な二次利用されているので、知らない人がいないほどだ。
1967年にアンドレ・ポップが作曲し、ポール・モーリアが録音した「恋はみずいろ」という曲は、このドリア旋法を冒頭に使っている。
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この曲は1968年1月にアメリカで発売されて火がついて、ヒット・チャート全米一位となり、その年のグラミー賞をとった曲である。インストのこうした曲がヒット・チャートでランクインする事自体が滅多にないことだけに、この曲は大きなインパクトを持っていた。
ちなみに、ポップス・ナンバーでチェンバロ(ポール・モーリア自身が弾いていたと言われる)をフューチャーした音楽がヒットをするというのも、時代を感じさせるものである。バロック音楽ブームが起ころうとしていたという時代の話である。
もちろん70年代でドリア旋法がなくなったわけではない。数多くの作曲家たちが旋法を利用している。中でもアニメ映画やゲーム音楽に大量に使用例がある。次の曲を知らない人はおそらくいないだろう。
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1984年の作品である映画「風の谷のナウシカ」のテーマ音楽として久石譲が作曲した音楽は、典型的なドリア旋法である。
さて、こうやってまとめてみると、旋法に何か共通したどこかエキゾチックな性格が浮き上がってこないだろうか。この普通の調性で味わえない、エキゾチシズムがモードの特徴なのだ。ポピュラー音楽に使われる前に、19世紀に生まれた巨匠たちが、普通の調性に対して行き詰まっていた作曲者たちが使いまくったのも当然であろう。

ドビュッシーの夜想曲の第2曲「祭り」のテーマもまた、ドリア旋法ではじまる。
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この3音をのぞいた5度の響きにのって聞こえてくる祭りの音楽が、ドリア旋法によっているのだが、19世紀最後の頃に書かれたこの作品から10年あまり経って、ドビュッシーは再びこのドリア旋法を使っている。
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ギリギリまで切りつめた単純な和音だけでメロディーを支えるこの音楽は、ドビュッシーの到達した枯淡の境地を見事に表していると私は考える。「祭り」のエネルギッシュな世界とは対照的な静寂の世界である。

(この稿、更に続く)
by Schweizer_Musik | 2006-05-28 18:28 | 授業のための覚え書き
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