今日の一曲 (12)
ラヴェルのソナチネを…。
この名曲と格闘していたのは、高校生の最後の夏だった。もちろん一番優しいという第1楽章である。(第3楽章なんて全く手が出ない状態だった…苦笑)下手くそな私のテクニックでは、ラヴェルに申し訳ないばかりであったが、しかし、この見事な作品の片鱗を体験することができたことは、実に貴重な体験だった。
いくつかの編曲版が出ているが、この作品も「夜のガスパール」「水の戯れ」等と同様、ラヴェルはオーケストレーションしていない。確かにやりたくなる気持ちもわからないではないが、これをオーケストレーションして人々を納得させられるのはラヴェルしかいないだろう。しかし、私も挑んでみたい課題ではある。
第1楽章のテーマは、どう考えたってソナタの主題というイメージからほど遠い。ソナタをベートーヴェンやモーツァルト、ハイドンでしか考えていなかった私には、当時、この曲はとても異質なもののように思えていた。歌謡的な第1テーマに長い音符で響きをたっぷり聞かせる第2主題。2つのテーマを使ってどんどん発展していく展開部に正確に型どおり繰り返される再現部。ぐうの音も出ないほど完璧なソナタ形式でできているのだが、ハイドンやベートーヴェンで知っているソナタ・アレグロとは全く異なる抒情的な美しさに、私はとても驚いたものだ。
考えてみたら、こうして一つの型に当てはめて思いこむことは音楽では大変間違った結果を生むことは過去の多くの名曲に対する愚かな評論家の批評によって証明されているではないか!モーツァルトのピアノ・ソナタだって、ベートーヴェンのソナタだって色々ある。月光ソナタの名前で有名な第14番の第1楽章も、あまり語られないがソナタ形式なのだ。

つまらないことで興奮しても仕方ないので、この曲の好きな演奏について。私はデ・ラローチャによる演奏(BMG/BVCC-650(09026-60985-2)が知情意のバランスがとれていて、とても好きだ。高校生の時はアルゲリッチの演奏なども好きだったが、今はあまり聞かない。ただ、大変な名演であることは間違いないが…。
有名なコルトーの録音(Biddulph/LHW 006)もあまりにも古い録音であることを乗り越えて、今も時々聞く。しかし、ロベール・カサドシュ(SONY/MP2K 46733)もそうなのだが、この第3楽章のテンポが速すぎて音楽のディティールを崩しているように思うので、私の評価としては今ひとつである。
というわけで、ソロで聞くなら、私はラローチャになるのだ。
一方、編曲版もいくつかあるようだが、私が持っているのはカスパロフ編曲による室内管弦楽用のものと、キャロル・ザルゼド編曲によるフルート、チェロ、ハープのための三重奏版(ETCETERA/KTC 1021)だが、私はこの三重奏版が大変気に入っていて、よく聞く。今も手に入れば良いのだが…。
by Schweizer_Musik | 2006-08-28 21:19 | 今日の一曲
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