津田理子さんの弾くヒナステラ・ピアノ全集 *****(特薦)
ヒナステラのピアノ曲全集は、おそらく津田さんの最も良い面が、全部出たCDだと思う。彼女のピアノの音の豊かさ、木質の暖かな響き、広がり、全てがこの録音に含まれている。
シオンの録音スタジオは、多くのアーティストが利用している優れた音響のスタジオである。ヴァイオリニストのティボール・ヴァルガ財団の運営するスタジオだ。
アルベルト・ヒナステラ(Alberto Evaristo Ginastera,1916年4月11日 - 1983年6月25日)は、アルゼンチンのクラシックの作曲家。とあるのはウィキペディアの記述であるが、彼はスイスとも深い縁で繋がっていた。年取ってからジュネーヴのチェリストを妻にして、確かこの地に移り住んだのだったはず。亡くなったのもジュネーヴだった。
そんな彼のピアノ作品は、そう多くなく、津田さんのこの一枚に収まってしまう程度である。
コープランドの弟子だったこともあり(バーンスタインもそうだったっけ・・・)比較的単純化されたラインで、民族的な表現を試みるといった作風をもっていた。バレエ音楽の「エスタンシア」などはその代表作だ。
最近私がこのブログで書いた松村氏も、先頃コンサートで弾いていたが、松村氏はヒナステラは嫌いだったようだ(笑)。
ともかく、そのヒナステラをここまで丁寧に、そして音楽的に弾いたCDは今までなかった。私もいくつか持っているが、彼女の録音に優るものはない。
12のアメリカ大陸風前奏曲 Op.12 (1944) の第2曲「哀しみ」の感傷は、どこか弟子のピアソラに通じるものがある。
ヒナステラは、自分の音楽を3つの時期に分類していたが、この作品は、1期目の「客観的愛国心」の時代に属し、アルゼンチン民謡をなどをよく使っていた時代の作品である。だからこそ親しみやすいスタイルが印象的だ。
南米風舞曲の組曲 Op.15 (1946)やアルゼンチン舞曲集 Op.2 (1937) もそうした初期の時代の作品で、リズミックでなかなか楽しい作品である。
こうした親しみやすさから少しずつ変わり始めたのが2期目の「主観的愛国心」(1948年~)の時代の作品で、ピアノ・ソナタ 第1番 Op.22 (1952)などがそれにあたる。
民謡のあからさまな使用は次第に控えられるようになり、より古典的な様式が支配的となっているが、アルゼンチン風の民族色を捨て去ってはいない。
最後の3期目は「新表現主義」(1958年~)の時代であり、このアルバムでは、ピアノ・ソナタ 第2番 Op.53 (1981)やピアノ・ソナタ 第3番 Op.55 (1982) がそれにあたる。
津田さんは、南米のコンクールでも入賞するなど、ラテン系の作品を得意としているピアニストである。彼女の弾くヒナステラの生き生きとしたリズムと、伸びやかなカンタービレは、まさにヒナステラ演奏に理想的であろう。

Cypres/CYP-1625
by Schweizer_Musik | 2005-02-10 09:53 | CD試聴記
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