ロリン・マゼールが1980年代初頭にテラークに録音したショスタコーヴィチの革命とストラヴィンスキーの春祭を聞く。
快刀乱麻!の春祭は旧盤よりもあっさりしていて、どうもこんなに上手く行っていいのだろうかと思ってしまうほどで、ストラヴィンスキーが生きていたらさぞかし喜んだことだろう。無用な解釈を受け付けない態度を貫いたストラヴィンスキーだからこそであろうが、聞き手にとってはどうも面白みが少ないと思われる。 しかし、ほとんど天井からのつり下げたマイクのみで録ったとは思えないほどの解像度と臨場感である。昔、あるレコーディングに参加した時、録音スタッフがマイク位置をほんの数センチ動かすだけで残響や音像が驚くほど変化したことを思い出す。その録音は私の友人である松村英臣氏のチャイコフスキーの「四季」のCDなのだが、あれは奇跡のような体験だった。 私は長い間、ヤマハでコンサートをして来た経験があるが、いつも使うホールのピアノの位置とソリストの立ち位置は決めていた。何度かやって行く中で、このホールならここというのがある。センターを基準に板目の何枚目というのを10箇所ほどのホールについてメモしていた。 実はピアノの置き位置をほんの数センチ変えただけで、ピアノの響きは全く違う。「今日はピアノの音が……に聞こえる(…は弱く、あるいは強く)」と普通、言われているのは大体ピアノの置き位置のなせる技であることは常識だ。 方向を少し変えるだけでよく聞こえるポイントは大きく変わるし、あまり動かすと響きが全く変わってしまうことも常識だ。 私のやっていたコンサートでは音響装置を使うものが多かったが、非力なピアニストの鳴らない部分をスピーカーで多少助けることは出来ても、非力な音はやはり非力でしかなく、音響装置は音楽を補うものでなくサポートするものであることを痛感したこともある。 それでこのテラークのマゼールの春祭はあまりに見事な録音に脱帽するしかない。しかし私はどうもこの演奏に心動かされなかった。良い音響スタッフがいても、それが音楽を作るのではないことをこの度も痛感した。 決して悪い演奏ではないことを力説しておく。誠に見事にスコアを再現しているし、その丁寧な仕事ぶりはまさにプロ中のプロの仕事だ。オケの技術は誠に高く、こんなに演奏してもらえれば私など感激して椅子から転げ落ちることだろう。 でも、私はこの春祭に心は奪われず、ずっと冷静だった。マゼールの指揮がそうさせたのであろうか?
by Schweizer_Musik
| 2007-07-21 11:47
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