弦楽四重奏の授業(1)
木管五重奏や金管五重奏、弦楽四重奏などの編成は、オーケストラの各セクションを取り出したアンサンブルであり、それぞれに魅力的である。中でも弦楽四重奏は、オーケストラのエッセンスとして最も重要なもので、多くの作曲家たちが取り組んできた編成である。
様々な編成の中で、アンサンブルの王様とも言うべき編成であるので、これを学ぶことはオーケストラを学ぶ上で最も重要なことであると言えよう。

弦楽器それぞれの構造、特色を知り尽くしてなければならないことは、言うまでもない。オーケストラの花形であり、そのトップであるコンサート・マスター、コンサート・ミストレルはオーケストラの要として位置づけられる。このコンサート・マスターによってオーケストラのアンサンブル、特に弦楽器の響きはガラリと変わる。だから音楽監督が交代するとコンマスも変わることが多い。彼らは団員ではなく、基本的に年契約の演奏家であるからだ。
有名で優れた指揮者は好みのコンマスを連れて次のオケの音楽監督になったりする。だから音楽監督が交替するとオケの音色が変わることが多い。
もちろん、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団やウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ボストン交響楽団といった大オーケストラではコンマスがオケの取締役のような立場で、オケの特色となる音色の伝統を引き継いでいくようなところもあるが、いずれにせよ、コンマスがオケの要であることには間違いない。
それは、弦楽がオーケストラの中心であり続けていることの証左でもある。近代になって吹奏楽に弦楽が加わったようなスコアが書かれるようになったけれど、もともとは弦楽合奏に管楽器を少しずつ加えて今日のオーケストラの形が出来ていったわけであるから、これは当然のことだろう。

さて、前期の最後から、後期の現在、弦楽四重奏の編曲をオーケストレーションで行っているが、そこでやっている実習について少し記録を残しておくことにした。
4声で書かれたものであれば、弦楽四重奏に直すことなど、簡単な話である。
例えば次にあげるチャイコフスキーの「こどものためのアルバム」の第1曲「朝の祈り」であるが、原曲は次のようなものである。
c0042908_10181419.jpg
こんなものであれば、ばらせばそのまま弦楽四重奏である。(だから、和声法をきちんと身につけておくことが大切なのであるが…)
スコアにするまでもないけれど、そのまま弦楽四重奏にすればつぎのようになる。
c0042908_10194192.jpg

しかし、こうした簡単なものではあまり勉強になりそうもないので、それぞれにどうすればいいのか、ちょっとだけ悩ませるアレンジの練習をしてみた方が良いだろう。
それでは、まずモーツァルトのピアノ・ソナタからいくつか題材を拾ってみよう。
c0042908_10243164.jpg
このイ短調のソナタの冒頭を弦楽四重奏にしてみよう。
まず悩むのは、声部をどう分けるのかである。冒頭の伴奏は3声であるから、第1バイオリンにメロディーをやらせて、伴奏の和音をそのまま第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロをあててもいいだろう。しかし、2小節目でそれは出来なくなる。どうしようか。
弦楽器にはダブル・ストップ(重音奏法)というものがある。これを使えば簡単だ。
c0042908_1112820.jpg
このようにダブル・ストップを部分的に用いると、伴奏の和音の音色がやや一定しないうらみがあるので、できれば避けた方が良いのだけれど。
ザルツブルク・シンフォニーという名前で親しまれている弦楽のためのディヴェルティメントK.136の第1楽章などもこのやり方で書かれているが、こんな苦し紛れのダブルをモーツァルトは使っていない。…当然だ。
アレンジではよくある問題であるが、大勢に影響の少ない音、この場合は第2ヴァイオリンのH音を除くというやり方も検討して良いと思われる。

ザルツブルク・シンフォニーではなくアイネ・クライネ・ナハトムジークの第1楽章の和音の刻みのスタイルを使って編曲してみよう。
c0042908_10514488.jpg

弦楽四重奏でもコンバスを加えた弦楽五重奏でも、また弦楽合奏でも対応が可能なアレンジができた。
ここまで拡大解釈してやるのであれば、バスを加えた次のようなやり方も可能だろう。
c0042908_11103574.jpg
かなり作品に踏み込んだ解釈をベースとした編曲なのでお薦めできないけれど、可能性として考慮してよいと思われる。

さて、続いてK284のソナタの冒頭をアレンジしてみよう。これはオーケストラを想定したような曲なので、弦楽四重奏ではやや音が足りないところがあるのだけれど、それはともかく、スケールの大きいトゥッティの音を重音奏法を活用してどう表現するかが大切なポイントとなる。
まず原曲をあげておく。
c0042908_11144682.jpg

オーケストラの音がかすかに聞こえてくるような書き方をしていることに気がつかれただろうか。冒頭はオケのトゥッティだ。
ピアノでは両手という制約(どんなに頑張ってもオクターブ5つの音しか弾けない!)があるので、その制約のないオケならばそれを拡大して演奏できるのだから、原曲の音からどう音を付け足すかによって大きく出来上がりが変わってくる。
とりあえず、簡単に編曲してみたものを次のあげておこう。
c0042908_1256113.jpg

冒頭の重音はオクターブ拡大で、交叉させて使うのが一般的である。また力感の欲しいフレーズにはユニゾンを使うと良いだろう。
4小節目からの左手の属音の連打は、そのままオクターブ跳躍を演奏させるよりも、ヴィオラとチェロの2パートでやる方がずっと簡単で効果的だろう。
13小節目からの右手はトレモロに解釈するのが一般的。続く細かなパッセージもそのまま弾くのは困難なものになるので、こうして2パートに分割するのが一般的だろう。メモのようにサッサとやったので、ちょっとミスが残っているのだけれど、わかるかなぁ…。
この項目、更に続く予定。
by Schweizer_Musik | 2007-10-18 09:49 | 授業のための覚え書き
<< 弦楽四重奏の授業(2) 神奈川フィルのコンサート…大名演!! >>