さて、この新シリーズ第2弾は、リムスキー=コルサコフの歌劇「五月の夜」序曲を取り上げようと思う。 1880年に初演されたこのオペラ、全曲は聞いたことがなく、私はもっぱらこの序曲だけであるが、意外によく書けた作品で私は結構気に入っているのだけれど、みなさんはどうだろうか? リムスキー=コルサコフは私の知る限りで16作の歌劇を書いており、他にもムソルグスキーの「ボリス・ゴドゥノフ」や「ホヴァンシチナ」、ボロディンの「イーゴリ公」などの補筆・改訂(一部にはいらざる「改悪」と言う人もいるけれど…)をしたりと、この分野のオーソリティーだったことは意外に知られていない。 大体、19世紀の帝政ロシアの末期は、革命前夜はいざ知らず、歌劇やバレエが音楽の花形であったのだから、チャイコフスキーをはじめ作曲家という作曲家はオペラでの成功を夢見ていたのだ。 だから、歌劇作品は力の入り方が違うように思う。 この「五月の夜」も彼のオペラ作品としては比較的早い時期の作品ながら、入念に作品を仕上げており、管弦楽作品としてもかなりの熟練の技が聞かれる作品である。 民話を題材としたものだそうで、ロシア独自の音楽文化を創り上げようという彼らの思想を表したものだとも言えるが、シェエラザードやアンタールのようなエキゾチシズムよりも普遍的な語法によるもの。 その点が、この作品を地味な存在にしているのかも知れないけれど、ウクライナの民謡などを積極的に用いていて、チャイコフスキーなどの作品の完成度に迫る逸品だと思う。 物憂い楽想が、ふわふわと舞う綿のような花弁のように(六月頃になればモスクワはそうした白い綿のような花だったか種子だったで、街が白くなるほど…である。ちょっとした私の思い出から…)流れ、穏やかな「五月の夜」を歌い上げる。終わる少し前に少し激しい部分はあるけれど、それも長くは続かず穏やかな音楽に吸収されていく。 民謡を素材として用いたため、若干テーマ間の対比が乏しく、平板に感じられるかも知れないが、そうした問題をゴロフチン指揮モスクワ交響楽団はよく補っていると思う。 オケのアンサンブルに若干の問題は残っているけれど(管楽器が全体に硬く、表現がせせこましい…。それに弦のピッチが若干甘く感じられる)やる気のなさ気なヤルヴィのシャンドス盤よりもずっと良い。 ディヴィッド・ジンマン指揮ロッテルダム・フィルの録音はとてもうまくクリアしていた名演だったけれど、今も手に入るのだろうか?ちょっと心配ではある。
by Schweizer_Musik
| 2008-04-30 08:59
| 若葉の季節…音楽を聞こう
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