カール・リヒターの録音から
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カール・リヒターの演奏をまとめたユニバーサルのボックスものがiTunestoreであったので、先日買ったのだが、それから少し聞いてみたが、この指揮者がいかに素晴らしい音楽家であったかを再認識しているところである。
今更ではあるが、私がこよなく愛する神奈川フィルの音楽監督マルティン・シュナイト氏はカール・リヒター亡き後を受け継いだ名指揮者であるが、その系譜が凄い人達のリレーであったことを思い知った次第である。
さて、カール・リヒターは数多くの録音が出ているけれど、晩年にゲルハルト・ヘッツェルやオーレル・ニコレと組んでバッハのフルート、ヴァイオリンとクラヴィーアのための協奏曲 イ短調を録音している。その演奏が含まれていたので、まず聞いてみた。(実はこれはCDで持っているのだが、吸い寄せられるようにまたまた聞いてしまった。
角張った、いかついバッハのイメージだったカール・リヒターであるが、ここではまるで巨大なバッハの手の中で遊ぶが如くどこにも力の入っていない、それでいてどこかに鷹のように鋭い目が光っているような強さを感じさせるものだ。
大体、フルートが主役のような協奏曲だからオーレル・ニコレの演奏に耳が行くけれど、ひとたびヴァイオリンが鳴り出したら、その楚々とした表情に、なんて美しいのだろうと一度に主客逆転してしまう。カール・リヒターのチェンバロがそれに優しく絡む第2楽章なんて、いつまでも聞いていたいと思う。
1980年の録音とあり、古楽器による演奏が幅をきかせはじめた時代である。コレギウム・アウレウム合奏団などの演奏がすでに時代遅れと言われはじめ、クイケン兄弟やレオンハルトなどのオランダ勢が一線で活躍していた。
カール・リヒターはどういう思いだったのだろうと思いつつ、次にペーター・シュライヤーと共演したシュメッリ歌曲集を聞いてみる。
ペーター・シュライヤーのこの歌曲集の録音はヘルムート・リリングと録音したものを持っていたけれど、カール・リヒターのオルガンの伴奏で歌ったものははじめて聞いた。
バッハの声楽作品の中でも特に一人でじっくり聞きたい時にはこの歌曲集はとびきりの作品で、折に触れて聞いて来た演奏であるが、ヘルムート・リリング盤では通奏低音の伴奏であったのに対して、カール・リヒター盤ではオルガンのソロでの伴奏で、よりテンポに余裕があるのだけれど、テンポなどは更に引き締まって聞こえる点が特徴だ。
もちろん、共通しない曲もあるし、一方はペーター・シュライヤーの他、アイリーン・オジェーのソプラノや合唱で歌われる曲があるなど、曲数も違うので比較の対象にはなりにくいが…。
「汝は満たされ、平静であれ "Gib dich zufrieden und sei stille"」BWV.460という曲はリリング盤ではオジェーが歌っているのだけれど、少し速めのテンポで歌い上げるオジェーに対して、ペーター・シュライヤーは深いブレスで、ゆったりとしたテンポにより、幻想的に聞かせる。
カール・リヒターのオルガンはフルート管を中心とした柔らかな音色を選び、幻想的な世界を演出している。
カール・リヒターの晩年…。こんなにも深い世界に到達していたのか…。
by Schweizer_Musik | 2008-06-15 21:23 | CD試聴記
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