買う人がいるからこの値段なのだろうが、いくら興味深いと言ってもこの値段はちょっと…。それにLPで「未発表」というのも矛盾している。その昔、このLPが売り出された時に未発表だったということなのだろうか? 師事した人も多いだろうから、何としてでも聞きたいという人もいるのかも知れない。いずれにせよ、私とは無縁の話ではあるのだが…。 ロスタルの演奏は何を持っていたのか、もう忘れている程度なので、彼の良い聞き手であったとは決して言えないけれど、モニック・アースの録音をCD8枚分まとめたものをiTunestoreでダウンロードした中にラヴェルとミハロヴィッチのヴァイオリン・ソナタの録音がアースとの共演で入っていて、それがまことに良い演奏だったからである。 アースの反応の良いピアノが華を添えていることは間違いない。が、ヴァイオリン・ソナタでヴァイオリンに魅力が無かったら話にもならない…。もっと鋭く切り込んでいっても良いのにと思う部分もあるし、表現が軟らかいなぁと物足りなく感じる部分も無いとは言えない。 しかし、聞き進むうちにこれがピアノの反応の良さと好対照で何とも具合が良くなって今のだ。 ラヴェルの第1楽章の面白いリズムのテーマが何気なく耳に馴染んでいくわけで、この気持ちよさはなかなか聞けるものではない。ピアノに協奏曲の残像のような音形が流れ去る時の心地よさと言ったらもう…。 第2楽章のブルースと題された楽章あたりに入ると、私にはロスタルのヴァイオリンの魅力がこのノーブルな味わいにあることが分かっていたが、それに夢中になっているのに気がついて驚く。 無窮動と題された終楽章での味わいも緊迫感よりも余裕を感じさせる。もちろん演奏者たちは高い集中をしているのだが、それが表面に出ていないのだ。でもテンポにいささかの弛緩もなく、次第に高まっていく。 緊迫感満点の演奏で感動するのもいいのだけれど、いつも付き合うのはちょっと疲れる。その点このロスタルとアースの演奏はとても具合がよろしい。音色は実に美しいが、グリュミオーのように蠱惑的というよりも、素直な音色だと書いておくことにしよう。 実は続くミハロヴィッチのヴァイオリン・ソナタ第2番の方が私は興味深かった。ロスタルの演奏も最初から入れ込みようが尋常でない。 マルセル・ミハロヴィッチは1898年ルーマニアに生まれ、フランスで活躍した作曲家である。同郷の巨匠エネスコに見出され、1919年にパリに出てきてダンディのクラスで学んだ。モニック・アースは彼の妻であるから、このアンソロジーにはピアノ・ソロの「リチェルカーレ」Op.46も収められている。 このヴァイオリン・ソナタ第2番は1941年に書かれたもので、近代モード技法によっている。移調の限られたモードなどが想像されるが、楽譜を見ていないので詳しくは分からない。 調性の大枠は残した作品であるが、私の弟子の一人であるモーツァルトが好きなKさんは厳しい作品と思うことだろう…。 第2楽章のラルゲット・カンタービレはとても美しいノクターン風の音楽であるが、何気ない当たり前のハーモニーによるピアノの前奏がふと崩れた瞬間にヴァイオリンがサッと登場し、フワリとピアノの上に漂いはじめるあたりは、この作曲家のセンスの素晴らしさを実感する。 終楽章の力強い表現も、ロスタルとアースによって気高い音楽となっている。この二人あってのこの作品ではないだろうか? 素晴らしい作品を聞いて、今朝も仕事だ!!
by Schweizer_Musik
| 2008-06-16 07:34
| CD試聴記
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