しかし暑い…。 昨日はあまりに忙しく、帰って食事をしてすぐに本当に倒れ込むように熟睡…。一昨日が色々と貯まりに貯まった仕事を片付けようとして、珍しく夜中まで仕事をしたおかげで、授業の準備が十分できず、一日、てんやわんやであった。 最後のオーケストレーションの授業は最も悲惨な状態で、加えて音源の資料が入っているHDを持ってでるのを忘れ、どうしようもない状態で、授業ははじまる、何も準備が出来ていないと最悪の授業となってしまった。 で、最初は好き勝手なことを喋り、音楽史についてや我々の職業であれば知っておかなくてはならないはずの作品の構造、そして作曲家をとりまく情勢、更に書かれた時代の背景への理解が必要なことを喋り、せめて音楽史のメルクマールとなった作品については勉強しておくべきだということを話した。(ほとんど準備不足からきた苦し紛れの内容で恥ずかしいものであるが…) それで、バロック期以降の(本当はルネッサンス期以降とすべきなのだろう…残念ながら、私のルネッサンス以前の音楽に対する理解はこれを語れるほどとは到底言えそうもないので、控えさせて頂く。)メルクマール的存在、あるいは一世を風靡した作曲家の代表的な作品を厳選してあげてみようと思う。 こうした試みは、私にもはじめてのこと。昔、吉田秀和氏の本で、こうした試みを読んだことがある。その時はそれほどとは思わなかったけれど、同じようなことをやるとなるとちょっと恐ろしい…。 全くの私見であるので、色々と意見はあるものと思うけれど、私はなるべく気楽に、(なんと言っても趣味でやっているブログなので…)やってみようと思う。 時代を遡るとかそうしたものにするつもりはなく、ただ、思いつきで書こうと思うので、かなりテキトー。でも学生たちには、勉強すべき対象のある指針となっていけば…と思って、全体で100以上のシリーズになる予定。さて飽きっぽい私にできるかどうか…。またメジャーな作品はこのブログではあまり取り上げないのだけれど、このシリーズでは、恥ずかしいほどメジャーな作品のオン・パレードとなるのは当然。 で、第一回は大バッハである。その傑作なら両手どころではなく、全ての作品をあげる必要がある。でも「少年老い易く学成り難し」である。バッハとは小川ではなく大海であるというベートーヴェンが言ったという名言のとおり、どれを対象として学んでも、音楽の神髄を学ぶことができる。 で、その中から私が学生たちにまず勉強すべきだと推薦するとしたら…平均率クラヴィーア曲集第1巻、第2巻だ。 作曲家 : BACH, Johann Sebastian 1685-1750 独 作品名 : 平均率クラヴィーア曲集第1巻、第2巻 ナクソスの音源は鈴木雅明氏の第1巻の演奏はこちら。歴史的名盤として名高いエドヴィーン・フィッシャーの演奏は第1巻はこちら。第2巻はこちら。 レヴィンによるオルガンによる演奏はとても面白いけれど、それは第1巻がこちら。第2巻がこちら。 推奨する演奏 : ニコラーエワ、リヒテルなど多数 曲集は全部で48曲。同主調を行き来しながら半音ずつあがって、全ての音高の調性で書かれた作品。但し異名同音で変ロ長調や変ト長調と言った調性はなく、それぞれ嬰ハ長調、嬰ヘ長調といった調性で書かれている。 平均率とは何かについては、学生諸君はこちらをよく読んで勉強してほしい。ミーントーン、あるいはピタゴラス音律の知識程度は持っておいてほしいと思うが、こうした「平均率でない」(純正調と呼ばれる)調律では、様々な調性の音楽を演奏することが難しいため、調性による音程のズレを細かく調整した平均率による調律を使うということで書かれたのがこの作品である。 こうした意味で、大変歴史的な意味を感じ、この連載第一回にとりあげた次第である。 曲は比較的コンパクトにまとまった前奏曲とフーガが第1巻、第2巻にそれぞれ24曲ずつ、全ての長短調で収められている。 前奏曲とフーガはそれぞれに共通する素材による深い近親関係にありながら、性格的に対比するように書かれていて、近代的な構造原理によるものとなっている。 この作品をベートーヴェン、モーツァルト、ショパンなど18世紀から19世紀にかけての大音楽家たちから、シェーンベルクやヴィラ=ロボスなどはじめ多くの近現代の作曲家たちまで、こぞって勉強し、その成果として編曲作品などが存在することは忘れてはならない。 48曲、いずれも独自の、他の何ものにも代え難い特徴を持ち、そして普遍性を獲得している。まさに時代を超えた傑作中の傑作。 作曲を学ぶ者ならば、誰もが暗譜するほど勉強しておくべき作品である。 演奏は…。あまりに数多くの名演があり、そのいずれにも心打たれるものがあった。最高だったのは、我が友人である松村英臣氏が、チャイコフスキー・コンクールで弾いた第2巻の変ホ短調だった。眠たそうな審査員たち(本当にうつらうつらしている奴もいた…まっ仕方ないのだろうけれど…)が、彼の演奏が始まった瞬間、何かに打たれたようにサッと目をひらき、ステージの方を見上げたのは忘れられない光景だった。その時の審査員長だったニコラーエワ女史…。 あの年、チャイコフスキー・コンクールにいきなりバッハ賞が創設されたのは、私は彼のあの演奏に対して、ニコラーエワ女史が何か賞を与えなくてはと思ったからに違いないと考えている。 (ついでながら、ニコラーエワの平均率クラヴィーア曲集の演奏、抜粋ながらナクソスにあるので、聞きたい方はこちら) さて、その彼の演奏会が今年の11月2日、東京の浜離宮朝日ホールで開かれる。前売り4000円。コメント、メールなどでご連絡いただければ手配します。 公演が近くなるとチケットの入手は困難かも…。 ところで、写真はスイス、ホーサースというところから、恐らくは早朝より山に登った人達が下山する後ろ姿を撮ったもの。前日の夜は嵐だったが、明け方より晴れて私ケーブルを使って登った。辺りは一面雪景色で、八月とは思えない風景だったが、その新雪を踏んで山から帰る人達に、清々しいものを感じた。
by Schweizer_Musik
| 2008-07-19 11:35
| 歴史に残る傑作選
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