食欲の秋だ!…音楽を聞こう -35. 映画「犬神家の一族」(1976)の音楽
作曲者 : 大野雄二
曲名  : 映画「犬神家の一族」(1976)の音楽
演奏者 : オリジナル・サウンドトラック
CD番号 : iTunestoreにて購入

この映画は結局、映画館では見ていないのだけれど、テレビでの放映で二度ばかり見た記憶がある。
私には原作を読んだ時の印象の方が強いのだけれど、映像も素晴らしく面白かった。市川崑監督、石坂浩二主演での1976年の作品で、公開当初、私は高校生で、早野柳三郎先生の下で作曲の勉強をしていた頃のことである。
まだ、何も知らなかった私にはこの作品の音楽がとても鮮烈であった。三度で重ねたフルートが艶めかしくフィル・インを極めるなんてことにときめいたものだった。
iTuneで偶然見つけて、レコードは持っていたのだけれど、音源を買い直すことにしたのは、やはりあの頃聞いた音楽の印象の深さにあった。
久しぶりに聞くと、さすがにアレンジに時代を感じてしまったけれど、メロディーにいかにも大野雄二氏らしいモードの扱いや、邦楽器を積極的に取り入れていたりと、当時の音楽の最先端を行っていたことに気付かされた。

大野雄二と言えば、ルパン三世の音楽が有名だけれど、あのみんなが知っているテーマがドリア旋法で出来ていることなど、意外と知られていない。ジャズ風の音楽が教会旋法によっているというのは、1960年代の流行でもあった。世はモード・ジャズの全盛であったのだ。
こうした時代が武満徹に「地平線上のドーリア」を書かせた?(ちょっと言い過ぎかなぁ)わけなのだけれど、ハンコックやデイヴィス、ギル・エバンスなどが一世を風靡する中に、ポップの世界に大野雄二が出現したととらえるのが良いのだろうか?
しかし、市川監督がこの映画で大野雄二を起用したのは大正解だった。この軽く洒落た響きが話のおどろおどろしさと見事な対称を成しているのである。そこに映像美が加わり、筋立ての重さから我々を解き放ったわけだった。
映像に対する音楽の設定としては当時、これは画期的だった!
猟奇的な殺人に「愛のバラード」をぶつけるのだ。それが母の愛だったり、婚約者の愛だったりするのだけれど、おぞましい殺人に対するこの強烈な対比は見事だった。
これは、ずっと昔、「世界残酷物語」で「モア」という美しい音楽をあてるなどの先例はあるけれど、映画としての娯楽性と芸術的な完成度のバランスが、やはり良いのだろう。
by Schweizer_Musik | 2008-10-09 09:08 | 食欲の秋だ!…音楽を聞こう
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