トマス・ビーチャムのロマン派前期のフランスの管弦楽作品集
作曲者 : GRÉTRY, André-Ernest-Modeste 1741-1813 仏
曲名  : 歌劇「ゼミールとアゾール "Zemire et Azor"」(1771) 〜 バレエ音楽
演奏者 : トマス・ビーチャム指揮 ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団
CD番号 : SONY-Classical/SMK91167

この優美な音楽を、滅多なことでは聞けないとは悲しいことである。トマス・ビーチャム卿が、1954年4月28日ロンドン、ウォルサムストウ・タウン・ホールで録音したこのCDをぜひにもお薦めしたいところだ。
他に…
メユールの歌劇「ティモレオン "Timoleon"」(1799) 序曲
歌劇「架空の宝物、または立ち聞きの危険 "Le tresor suppose"」(1802) 〜 序曲
歌劇「若いアンリ (アンリⅣ世の青春時代) "Le jeune Henri, 'La Chasse du jeune Henry"」(1797) 〜 序曲
といった今では滅多に演奏されない、古典派時代のフランスの歌劇の序曲が3曲も入っている。
このメユールは大変力のあった作曲家で、交響曲なども残していて、フランスの古典期の数少ない優れた器楽の作曲家でもあった。もちろん歌劇でパリを席巻した作曲家だったが、この作曲家の作品をベルリオーズが高く評価していた。
きっとそうした関係でこのCDには、1951年録音のベルリオーズの「イタリアのハロルド」も入っているのだろう。そう考えるとなかなか凝ったプログラミングだと思う。
「イタリアのハロルド」はもともとパガニーニのために書いたヴィオラ協奏曲だったというか、途中までは確かにそうだった。
しかし、あまりパガニーニが好きな技巧的な作品でないということもあり、予定していた協奏曲ではなく、結果的にヴィオラ独奏を持つ交響曲となったのだ。
だからヴィオラの独奏付きの交響曲などという、協奏曲とも交響曲とも言えないなんとも中途半端な編成、構成の作品となったのである。
だからだろうか?ベルリオーズ入魂の作品であるにも関わらず、意外なほど人気がない。
ベルリオーズと言えば幻想交響曲ばかりがとりあげられ、ちょっとこのイタリアのハロルドは日陰の存在となっているのはもったいない。何しろパガニーニに弾いてもらおいと書いていたわけで、華麗ではないにしてもヴィオラは大活躍する、ユニークな作品なのだ。
大体ヴィオラがソロをとる作品は古典派からロマン派にかけて滅多になかったのだ。
標準的な二管編成ながら、さすがにベルリオーズらしいオーケストレーションが随所に光るこの作品は、隠れた名作と呼んでもいいかも知れない。
スコアを見ていてちょっと変わっていると思うのは、オフィクレイドという当時作られたばかりの金管楽器が使われていることだろう。またハープも活躍している。
今ではすでに使われなくなったこのオフィクレイドに代わって、チューバ(もしくはユーフォニアム)が演奏している。(ちなみに幻想交響曲でもこの楽器が使われていた…と思う。他にはメンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」序曲、劇音楽で使っていたっけ…)。
まぁ、管楽器は様々なものが生まれては消えていったため、スコアを勉強するのも一苦労だ…。
大体、大学のオーケストレーションの授業ではこんなことはあまり教えてはくれない…。

この演奏で聞く「イタリアのハロルド」は、ウィリアム・プリムローズのソロがあまりに素晴らしく、この不世出の名手の名演として、そしてトマス・ビーチャムの素晴らしい指揮とともに、モノラルながら最高のパフォーマンスとしていつまでも残しておいてほしいものだ。
こうしたモノ期の珍しい作品の録音は、見つけた時に買わないと後で残念なことになる。お薦めの一枚。(第1楽章の途中に録音のかなりわるいところがある…。買ってから気がついたのだが)

ともかく、この貴重な録音の他にマスネのオラトリオ「聖母 "La Vierge"」(1880) 第4場 〜 聖母の永眠 "Le dernier sommeil de la Vierge"が入っていることも申し添えておこう。
しかし、私にはこれらの名作にも増して、冒頭にあげたグレトリの歌劇「ゼミールとアゾール」のバレエ音楽がかけがえのないものである。この優美さ…。こうした曲を指揮するトマス・ビーチャムは水を得た魚というか、ポニョというべきか(笑)。
こんな気の利いた選曲で演奏会をだれかやってくれないかなぁ…。
by Schweizer_Musik | 2008-10-29 21:56 | CD試聴記
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