ラフの最後の交響曲となった第11番 イ短調「冬」と史上はじめてのシンフォニエッタヘ長調 Op.188を聞く。テューダー・レーベルによる名盤であるが、あまり知られているとは言えないのでとりあげることにした。
交響曲 第11番は若きヴェンツァーゴが指揮したもので、ノーブルでいかにも彼らしい演奏だが、聞けば聞くほど味わいが出てくる演奏だと言えよう。 第1楽章「最初の雪」の悲しげな表情、展開して行く中でフーガのようにストレッタでテーマを出すなど、サラリと動機が展開されていくのだが、私にはこの単純でいて味わい深い第一主題に惹きつけられた。トライアングルなども使われ、木管楽器に細かな装飾的なパッセージを与えて、平易な主題を飾り、更にポリフォニックな処理によって奥行きを与えている。 第2楽章は標題をラフは与えていないが、スケルツァンドなテーマは暖炉に燃える炎なのだろうか。暖かな雰囲気は、聞いていて心が弾むようで大変魅力的だ。フルートに弾むフレーズを与え、背景に弦を配しているあたりのオーケストレーションは心憎い。フルート奏者は嬉々として演奏しているみたいだ。 第3楽章は"Am Kamin"「炉端にて」というタイトルが付けられている。Larghettoで演奏されるこの音楽。ファゴットのソロにホルンが絡み、やがてオーボエが、そしてクラリネットが絡んでいき、最後に弦楽になるという始まり方である。これだけでもいかにラフが新しいスタイルのオーケストレーションを身につけていたかわかる。ヴェンツァーゴの指揮するバーゼル放送交響楽団はとてもよく演奏している。 終楽章はカーニバル。春を待ちわびるように華やかな音楽となっている。ちょっとチャイコフスキーのピアノのための「四季」の中のカーニバルを思い出してしまった。ヴェンツァーゴの引き締まった指揮で集中力の途切れることのない名演である。 このCDにはもう一曲、シンフォニエッタヘ長調が収められているが、こちらはアンドレス・ヨーホ指揮バーゼル放送交響楽団である。とは言えこの作品は弦楽が出てこないのだから、バーゼル放送交響楽団メンバーによる演奏と言っても良いのかも知れない。 グノーの小交響曲などに先立つこの作品は、シンフォニエッタというタイトルを持つ、史上初の作品である。木管合奏による作品は野外でのセレナードなどに多くあったが、演奏会用の小さな交響曲としてはラフが最初に作った。 木管アンサンブルは、実は弦楽などにさきがけて私は学生たちに教えるのだが、これのボイシングはアンサンブルを書く時の多くの基本を含んでいるし、古典の作品のような弦に寄りかかったアレンジとは違う、色彩感を理解させるには、こちらから勉強した方がいいからだが、これは近代のアンサンブル編曲を理解するには大切なアプローチの仕方だと私は考えている。 そして、ベルリオーズにはじまる近代オーケストレーション(ベートーヴェンにはじまると言ってもよいが・・・)の多くはこの木管の使い方如何にかかわっていることを思えば、このラフの作品も出来るべきしてできたというべきかも知れない。ハイドンなどのよく似た編成の作品と比べると、全く書き方が違うのだ。説明しているとどんどん横道に入ってしまい、出られなくなりそうなのでこのあたりでこの話はやめておくが・・・。 で、このアンドレス・ヨーホの指揮はまずまずの出来と言ってよい。表情がややのっぺりとしていて、もう少し表現を大きくしても良かったと思う反面、とても良いテンポでリズム感の良い演奏だと思う。もちろん行進曲などと違う、味わいのある曲なので、フレーズの作り方にもう少し工夫があっても良かった。一言で言うならば一本調子。この曲だけならば***というところだが、貴重な作品の演奏であり、ヴェンツァーゴの名演が入っているので、文句なしに*****(特薦)としたい。 TUDOR/787
by Schweizer_Musik
| 2005-03-07 10:02
| CD試聴記
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