武満 徹のノヴェンバー・ステップスの分析 その1
少し中断していたけれど、再び分析について少し書いてみようと思う。とりあげたいのは、武満 徹の「ノヴェンバー・ステップス」。
我が国が世界に誇る名曲でありながら、その実体があまり知られていないことと、この曲について専門的な立場から書かれた書物はいくつか存在するけれど、ネット上には無いようなので(私がしらないだけかも知れないが…)。

概論

何回かに分けて書く予定ではあるが、まずこれがいわゆる段物で、武満自身が11の変奏であると語っているところの作品であることを述べておきたい。
練習番号が11まであり、これがそうだと考えてもよいのかも知れない。初演が11月だったため、11月の階段というタイトルをつけたものの、そのStepsという言葉を日本の段ものに置き換えてとらえるのが良いのではないかと主張する解説が存在する。
有名なのは秋山邦晴のものであろうが、彼は練習番号と少しずれて解釈している。
これについてはまたいずれ述べることもあろうが、現行の練習番号で分けるのがやはりわかりやすいと私は考えている。
それはともかく、カデンツァに図形楽譜を使用するなど、当時としては最前衛の音楽でありながらも、この作品は決して無調であるとは感じられないところが大きな特徴としてあげられるのではないだろうか?
それどころか、旋法をベースとした独特のスタイルで書かれていて、半音階で音が埋まってしまう、激しく反調性的な響きからは一線をひいたところで成立しているところがユニークである。
それは、尺八を独奏楽器とした協奏曲というコンセプトからも、そのようになる運命を持っていたとも考えられる。これは、日本の伝統的な文化に根付き、そこと西洋的なるものとの葛藤が一つのモチーフなのである。

この曲に至る前に、武満は「エクリプス」という作品で、尺八と琵琶の作品を書いている。1966年に書かれたこの作品の存在は、ノヴェンバー・ステップスの成立には欠かせない実験というか、試みであった。
この作品において、武満は図形楽譜を採用しているが、実際にはかなり音のヒントとなるものを用いていて、極めて実用的な図形楽譜の試みを行っている。
これらの経験が、この「ノヴェンバー・ステップス」に生かされていることは間違いないが、編成上の問題だけでないことを指摘しておきたい。
音高の輪郭はほぼ指示された琵琶のパートは、中世以前のリュート音楽のタプラチュアを思い起こさせるが、彼がリュートやギターにもよく通じていたことも指摘しておく必要があろう。

遡れば、映画「切腹」や1966年のNHKの大河ドラマ「源義経」の音楽でこれらの楽器を使用する機会を得た中から「エクリプス」に、そして「ノヴェンバー・ステップス」へと向かっていったのであった。
これらの作品を聞き、作曲家の軌跡を追うのも一興であろう。
次回は最初の管弦楽による前奏をとりあげよう。
by Schweizer_Musik | 2008-11-06 23:47 | 授業のための覚え書き
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