冬の夜の慰めに (35) 三枝成彰氏のなかなか良い仕事…
作曲者 : 文部省唱歌
曲名  : 冬の夜
演奏者 : クリーヴランド管弦楽団シンフォニエッタ
CD番号 : PHILIPS/17CD-58

もう20年も前に買った一枚。恐縮ながら、今ではオークションや中古屋以外では手に入らないかも知れない。
この編曲の仕事はとても丁寧で良い仕事ぶりである。上手くこなしている部分もあり、曲のイメージを壊さないようによく考えられた新しいフレーズをしのびこませて、音楽の立体感を出すように工夫してあったりと、編曲としてもなかなか手が込んでいる。
編曲は、メロディーをそのままに伴奏をそれなりにつけていくのが、実は一番簡単な話で、三枝氏の仕事はその範囲を逸脱することはない。が、このCDの成功の最大の要因はオケを小さな編成にして、限定的なサウンドの中で、様々な変化をつけていったということではないだろうか?
更にそうすることで、唱歌が無用なスケールを持たず、相応の世界にうまくおさまることができたのであると思う。企画とそれを実現するプロデューサーの腕が冴えに冴えた結果と言えよう。
一管で弦のブルトは多分2-2-1-1程度だと思われる。指揮はクレジットされていないけれど、時間をかけて録音したという感じではない(大体この類なら一日から二日であろう)ので、三枝成彰氏が指揮をしたのかも知れない。
その演奏をするクリーヴランド管弦楽団団員のアンサンブルはすこぶる良い。パートの入り組んだアレンジではないので、演奏はそれほど困難ではなかっただろうけれど、ソロが多いということで、なかなか大変だったのではないだろうか。
ハープを箏の代わりにした「六段」はもうハープ協奏曲と言って良いほどだ。これはハープ奏者のクレジットをいれておいても罰は当たらないだろうに…。木管のソロもなかなか活躍するし、ソロを全部書くくらいなら、メンバー表を出すということになりそうだ。
大体こういうアレンジものの演奏者って取っ払いで「はいさよなら」みたいな仕事をさせられることが多いのでは?、などと穿ったことを思ったりも…。

一度聞いて、こんなものかとそのままになっていたけれど、これは店頭でかかっていたのを気に入って買っただけあって、今聞いてもなかなか良い。三枝成彰の仕事としては「ラジエーション・ミサ」そしてNHKの「清佐衛門残日碌」の音楽とともに良い仕事として印象に残る。
私の知り合いの間ではあまり評判の良くない彼であるが、良い仕事をしていると思った。少なくとも、聞いた限りにおいては、矢代秋雄の編曲した「日本の調べ」の一枚とともにこの録音は長く残してもらいたいものだ。
by Schweizer_Musik | 2009-01-03 11:40 | (新)冬の夜の慰めに…
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