作曲者 : TCHAIKOVSKY, Pyotr Il'yich 1840-1893 露
曲名 : 交響曲 第1番 ト短調「冬の日の幻想」Op.13 (1866/1868第3稿) 演奏者 : クルト・マズア指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 CD番号 : iTune−Storeで購入 (TELDEC) ネーメ・ヤルヴィ指揮による演奏なら こちら 最近、私の中での再評価が進む(笑)クルト・マズアであるが(ただ私が無知であるだけだった…)、その演奏でチャイコフスキー20代後半を代表する作品を聞いてみよう。 シューベルトの冬の旅のように絶望的なものというより、も少し感傷的で、ずっと夢がある曲。モスクワ音楽院の先生たちにこの曲を見せたのは26才の時。ニコライ・ルービンシュタインなどが散々に酷評し、若いチャイコフスキーはこれを受け入れ二度にわたって改訂している。今日一般に演奏されるのはこの第3版で、出来上がって15年後の1883年になってようやく初演された。 初演は大成功だったというが、特にロシア民謡風の悲しげなロマンス風のメロディーか印象的な第2楽章が好評だったという。 冬の日の幻想という曲名がなんとも良いと思うけれど、これは第1楽章につけられたタイトル「冬の旅の幻想」から生まれたものだそうだ。「旅」かぁ…と思う。荒涼たる冬の景色というよりも通り過ぎる冬景色…なのか? 最初、この「冬の日の幻想」というタイトルを見てから聞き始めた時に、かすかな違和感を感じたことを思い出す。それはイメージとして冬は停止、あるいは生命活動が静止している状態と思っていたのに、この音楽は私の中にあるイメージよりもずっと動的であったためだ。 楽章のタイトルを見落としていたらしい(笑)。 静止した冬の音楽なら、ドビュッシーの前奏曲集第1巻の「雪の上の足跡」なんて思いつく。 第2楽章の「陰気な土地、霧の土地」とタイトルがつけられた音楽は、初演の時に評判となった楽章だが、ザンクトペテルブルクの近くのラドガ湖を訪れた時の印象を作曲したものだと言われている。 フィンランドにも近いこの湖にはイワン雷帝による虐殺の記憶が残る、忌まわしい土地でもある。 ノヴゴロドとプスコフという町の住人が悉くが悲惨な拷問の上、虐殺されこの湖に捨てられたというのだ。1570年のことである。それもある者が流したデマによって…。 そういう歴史を引きずっているからこそ、「陰気な土地、霧の土地」というタイトルと、重々しい雰囲気は深さを増す。 しかし、この交響曲は旅の音楽であり、冬の戸外の音楽なのだ。スケルツォが雪の上で遊ぶ子供達のようで、なんとも可愛いではないか。 もともと第3楽章のスケルツォは嬰ハ短調のピアノ・ソナタからとられた。冒頭から全く同じメロディーが奏でられる。トリオはチャイコフスキー得意のワルツで書かれているが、これはコーダの素材としても使われる。この部分はソナタにはもちろんない。 終楽章は「咲け、小さな花」という南ロシア・カザン地方の民謡が冒頭、ファゴットで奏でられる。 この悲しげなロシア民謡がこの楽章のテーマとしてあるのだが、これは第1楽章のテーマと遠く関連づけられて、全体が緊密に構成されるのである。 この部分、ファゴットの低音が奏でるメロディーにクラリネットのシャルモー音域(低音域)によるハーモニーという組み合わせで、遠く第五番の交響曲を思い起こさせる。その後のメロディーの木管による装飾などはチャイコフスキーが確立した?ロシア風の音楽の定番とも言えるパターンが続く。私のような者には極めて興味深い部分でもあるのだ。 一種の循環主題による交響曲と言っても良いほどの構成力をチャイコフスキーは示している。しかし、昔からメロディーは美しいけれどチャイコフスキーは構成力がなく深みに乏しいと評されていた。私が音楽を好きになった頃は大体がそんな論調で、この初期の交響曲なんて滅多に聞くこともなく、長くグラモフォンの交響曲全集(当時は憧れの対象だった…高くて…)も若いトーマスなどの演奏が入っていて、帝王カラヤンは4番以降を担当していたものだ。 ちなみにカラヤンによる一番から三番までの録音は1980年頃になって出たものだったと記憶している。 ハイティンクの録音もその頃で、私はこの曲の録音としては今もこのハイティンクの録音が一番だと思っている。つづいてカラヤンか。オケの実力からすれば、コンセルトヘボウ管の方が上だ。 さて、クルト・マズアはなかなか良い。この曲の重層的で軽やかさと重さが不思議とバランスしている世界を過不足なく捕らえていると思う。長年連れ添ったライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団もとても良い演奏で応えている。 1970年代はじめにメンデルスゾーンなどの交響曲全集を出していたけれど、あれはこんなに良いものではなかった。最近購入して聞いてみたけれど、あまり魅力を感じなかった。マズアは次第に進化していったのだろう。まだ未知の部分が多いけれど、注目していこうと思う。 ただ、終楽章あたりの力感はやや不足していて、最後を聞きながら、やっぱりハイティンクにと思うのも事実であった。
by Schweizer_Musik
| 2009-01-11 08:33
| (新)冬の夜の慰めに…
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