昨日は神奈川フィルのコンサートに出かけ、色々と考え、色々と話し、たくさん飲んで、食べて…帰った。
以前に金 聖響氏が神奈川フィルに客演したのを聞いているが、常任となって私ははじめて聞く金 聖響と神奈川フィルの演奏会となった。 私の今回の関心事は、武智由香氏による新作の初演を聞くことであった。 その作品「オーケストラのたのEaux Lumieres Temps」は、「声明」や雅楽などの日本の伝統的な語法を自らの語法へと消化し、新たな創造へと結びつけた大変な力作であると思った。 ただ、こうした作品(最近とても多い感じがするが…)は、日本の雅楽や声明に西洋的な対比などが無いこともあり、どうしても平板に陥るところがあり、それをどうオーケストラの変化で補っていくかということに関心が移る。 そのあたりを武智氏は見事に描いてみせていた。特殊奏法による微妙な彩りがロングトーンを彩っていくのはなかなかに美しい聞き物だった。 第2部(だと思うが)の冒頭で、木管のソロが一つのメロディーを受け継いでいくところなど、とても美しく感じたし、決して平板に陥ることなく聞かせていたと思う。 金 聖響氏はよくオーケストラをまとめていたと思うが、はじめての作品なので細かいことは私にもわからない。 続いてのハイドンの「軍隊」は前の曲とちょっと整合性の欠く選曲で、どういう意図なのか測りかねたが、快調なテンポで聞かせていた。 それにしても、いや若い!!若いエネルギーの横溢を聞いたと思う。それは迸るようで心地よいものであった。ただ第1楽章は序奏から速すぎるというか、上滑りしているようで惜しい。もっと多くのことを語っているはずの作品が単調になってしまっているのは、彼の若さ故なのかも知れない。 このテンポを作品から受け取っている金 聖響氏の感性は大切にしつつも、それが聞く者を納得させる表現にまで確立されるには、まだ少々時間が必要なようであった。 ただ、武智氏の三管編成、+打楽器4、ハープ2にピアノ、チェレスタという大編成の後にハイドンでは、舞台転換に時間がかかり(ステージ・マネージャーは大変だっただろうな…)、演奏会としてはどうかと思う。私はあんなに待たされるのはちょっと辛いなぁと思った。 後半はワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」より「前奏曲と愛の死」とドビュッシーの「海」が演奏された。 めくるめく愛と死の恍惚の後に海の情景が広がる。それには「ペレアスとメリザンド」というピースが欠けていたけれど、19世紀の呪縛のようなワーグナーの半音階進行に対してのアンチテーゼであったドビュッシーの「ペレアス」、そしてその交響的展開となった「海」に聞こえる「トリスタン」の谺…がよく設計されていて、そうした意図をもって選曲されたとしたら、なかなかの策士だと思う。 ワーグナーもまた速めのテンポで快調に盛り上げている演奏だった。ややせかせかとした感じを受けるのは前半のハイドンのせいかもしれないが、速めのテンポで少々一本調子。ここはもっと様々な手練手管を使ってめくるめく世界に連れてってほしいところだが、少し若さ故の一本調子で攻めてしまい、聞きながら私はちょっと醒めてしまった。決して悪くはないが、もっと色々とスコアの行間を読んで欲しいなと思う。 私の不満はタメの浅さというか、プレスの浅さが原因ではないかと思うが、これは彼の中で更に熟成していくのを待ちたいと思う。才能豊かな指揮者の音楽的成長をこの神奈川で聞くのも大変楽しいことではないかと思う。 ドビュッシーではオケのメンバーにやや疲れが出てきて、神奈川フィルらしくないミスがチラチラと聞こえて来たが、こんなフル・マラソンをするようなプログラムなら多少割り引いて考えないと、ちょっと気の毒であろう。 一直線に進んでいくので、「風と海の対話」はちょっと痛い…(笑)感じ。耳タコの曲だけに、ちょっとした「間」とかがサッと通り過ぎてしまうのは、少しもったいない気がした。 恐らくは、後半のプロならば、現田茂夫氏が降ればもっと上手かっただろうなと思うが、はつらつとした金 聖響氏もまた魅力的だと私は思った。 これから…なのだ。 アンコールでドビュッシーの小組曲から「小舟にて」が演奏されたが、無くても良かったかなと思った。フル編成でするよりももっと小編成で透明感のある響きが身上の曲だからだ。しかし、フルートは上手かった。 弦をはじめとして神奈川フィルの音は、シュナイトさんの頃に比べて、響きが軽くなった。とは言え、美しいアンサンブル、美しい弦の響きは健在であった。チェロの山本氏もいるし、天才石田氏もコンマスの席に座っている。彼がアンサンブルの要となって今日も素晴らしい仕事ぶりであった。彼らがいる限り、このオーケストラの美しい響きは変わるものではないのだろう。うっとりする弦のセクションに、今回も魅了された。 終わっていつもの「勝手に応援する会」の「反省会」に出席。第1バイオリンの方も参加され、マチネで4時には終わったはずなのに、なんと九時半まで活発な議論が交わされ、神奈川フィルの明るい未来を心に描きつつ、家路についたのであった。 いや…よく飲んだものだ…。話しすぎて声が嗄れてしまった。皆様どうもすみません…。
by Schweizer_Musik
| 2009-06-28 03:38
| 神奈川フィルを聞く
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