温故知新 Vol. 6 ブレンデルとギーレンによるリストのピアノ協奏曲第2番
作曲者 : LISZT, Franz 1811-1886 ハンガリー
曲名  : ピアノ協奏曲 第2番 イ長調 S.125 (1839,49,53,57,61)
演奏者 : アルフレート・ブレンデル(pf), ミヒャエル・ギーレン指揮 ウィーン交響楽団
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ブレンデルのヴォックス・レーベルへの一連の録音は、LP時代の半ば、私が音楽を聞くようになった頃にコロンビアから出ていたダイヤモンド・シリーズで廉価盤として売られていた。ズビン・メータと組んだ「皇帝」なんていうのもあったし、ベートーヴェンのソナタの全集もこのレーベルに録音していた。
それら(多分全て…)がナクソス・ミュージック・ライブラリーにある。良い時代になったものである。なかでもこの録音について何度ここに書いたことだろう。私にとって特別の録音なのだ。これは中学の時である。以来、ずっと愛聴盤となった。コロンビアの廉価盤LPではウィーン・プロムジカ管弦楽団という名前であったが、実態はウィーン交響楽団なのだそうだ。
ブレンデルにはその後、フィリップス・レーベルに移籍してからハイティンク指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団と組んで再録音をしているし、トータルで言えばそちらの方が良いだろう。
しかし、私の愛している演奏は常に一貫してこれなのだ。

LP時代の楽しみにジャケットのデザインがあった。CD時代になってもオリジナル・ジャケット・デザインにこだわったシリーズが出たりするけれど、私はあんなチャチなものに興味はないので、買ったことがないが、売れているのだろうか?
ところで、もう何度も書いたので、知ってるよと言われそうで恐縮なのだけれど、私のアルプス好き、山好きはこのジャケットによるところが大きい。中学の時の体育の先生が山好きだったことも影響を受けたと思うけれど、それ以上にこのダイヤモンド・シリーズのジャケットにあった、フランス・アルプスのシャモニー針峰群とドリュ、グランド・ジョラスの夕景をラック・ブランというところから写したものがジャケットに使われていて、その幻想的でこの世のものとは思えない美しさと、手前の湖と小屋が日の光を失い、暗く沈んでいるのに対して、遙かな峨々たる山並みには夕焼けの紅い日が差していて、そのコントラストの鮮やかさも10代半ばになろうとする私の脳に作用し、どういう化学変化を脳内で起こしたものかは分からないけれど、アルプス大好き人間になってしまったのだ。
30才をとうに過ぎて、私はスイスに行くことが出来、ツェルマットという村から登山列車で登り切ったゴルナーグラートというところで、憧れだったマッターホルンと対面した。その時に重いザックの中にこの演奏を持っていった。夕焼けのマッターホルン、朝焼けのマッターホルン、そして月明かりのマッターホルン、2泊もして私はマッターホルンを堪能した。帰りは歩いて二駅ほど下り、トリュプゼーから湖面に映る逆さマッターホルンも堪能して、私のアルプス熱は本格化した。
その時のスイス行きはジュネーヴのコンクールを聞くことでもあったが、早々に引き上げた私は、フリブールやロモンに出かけて古い町の良さ、面白さを知ってからアルプスへと出かけ、ツェルマット、ミューレン、ブリエンツと周り、最後はルツェルンで五泊ほどして帰ったのだった。
その時に一緒に行ったのがこの演奏だった。ミューレンのホテル・クリスタル・ベルビューでラジオをつけたら偶然この曲をやっていたのには驚いたけれど、おかげでヘッドフォンでなく、小さなスピーカーから流れてくるこの曲を聞きながら、ラウターブルンネン・ブライトホルンや、ブリュムリスアルプといった山を眺めて過ごした。あの光が少しずつ力を失い、闇にその座を明け渡す過程をこの曲とともに楽しめたのも私の最高の思い出の一つだ。
シーニゲ・プラッテやブリエンツ・ロートホルンの山頂でも天気に恵まれ、素晴らしい日を過ごした時もこの演奏がそばにいた。
以来、スイス行きは私の生活の一部となっているし、この録音は毎回連れて行っている…。

冒頭のイ長調の主和音、面倒くさいのでコード・ネームで言うとAのコードに続いて、F7のコードがなり、Bm7、そしてE7へと移る。調性はイ長調とイ短調の間を彷徨うようで、極めて独特の響きを有する。演奏が華麗なのは第1番だし、そちらの方が有名である。
しかし、一番の勇壮なはじまりは、ジャケット写真の幻想と全く合っていなかったので、私はブレンデルのこのLPの二番ぱかりを聞いていた。おかげでこの曲に関してもの凄く詳しくなってしまったが…(笑)。
またこの演奏について書いていやがるとお思いのこととは思うが、私には特別の演奏ということで、ご勘弁の程を…。
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写真は何度目かのゴルナーグラートの写真であるが、上の写真は、私のこの曲に対するイメージを一番よく表しているものだと思う。ゴルナーグラートではなく、谷を一つ隔てたマッターホルンの登山口にあたるシュヴァルツゼーのホテルのベランダから撮ったブライトホルンとモンテローザの朝焼けである。時間は朝の5時頃だったと思う。私は三時頃からマッターホルンに登る人たちのヘッドライトを稜線に追いかけていた…。
下の写真は、私がよく泊まったゴルナーグラートのホテルと、マッターホルンの風景である。日中はやたらと観光客がやってくるのは当然だが、日が落ち、最終列車が下ったら、ホテルの宿泊客と従業員以外は誰もいないわけで、完全な静寂の中でこの風景を我がものにすることができるのである。ちなみにシュヴァルツゼーのホテルも最終のロープウェイが下った後はホントの静寂を体験することができる。山岳ホテルの素晴らしいところはこの静寂が特別の雰囲気を醸し出すところにあるのかも知れない。
ああ、また行きたい!!
by Schweizer_Musik | 2009-10-25 20:48 | ナクソスのHPで聞いた録音
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