アンセルメの指揮する「戦争レクイエム」
作曲者 : BRITTEN, Benjamin 1913-1976 英
曲名  : 戦争レクイエム Op.66 (1960-61)
演奏者 : エルネスト・アンセルメ指揮 スイス・ロマンド管弦楽団, スイス・ロマンド放送合唱団, コレージュ・ヴィラモン少年合唱団(アンドレ・シャリエ合唱指揮), ヘザー・ハーパー(sop), ピーター・ピアーズ(ten), トマス・ヘムズリー(br)
CD番号 : CASCAVELLE/VEL 3125

この曲の録音はそう多くないと思うが、私の持っているもの(作曲者の自演、ケーゲル、ラトル、マズア、ヒコックス)の5つの演奏はいずれも大変素晴らしい演奏で、どれも充分すぎるほどの感動をおぼえた。この曲をやるということはもうそれ自体、名演を予感させるものなのではないだろうか?
今年のサイトウキネンで、小澤征爾氏がこの曲を演奏したそうなので、年末あたりにはCDが発売されるのではないだろうか?
世に意外な組み合わせはあるものだけれど、このアンセルメが振った戦争レクイエムには驚かされた。彼がこの曲も録音していたとは…。アンセルメが喜びそうな曲だと思い、どうして演奏しなかったのだろうと不思議に思っていたものだが、やはりあったのだ。寡聞にして、この録音の存在は全くしらなかった。
ケーゲルのように深い闇の中から呼びかけるような出だしと正反対の表現で、アンセルメは極めて直裁な始まり方をする。ミステリアスな雰囲気はここには皆無で、不条理に対する怒りに満ちている。
アンセルメの声楽作品の録音の多くがあまり良くない(フォーレの「レクイエム」など)ので、ブリテンのより一層手の込んだこの作品をアンセルメがどう捌くのかと心配したが、それは杞憂であった。スイスの合唱界の重鎮アンドレ・シャリエがみっちり指導した成果がここで聞くことができる。デッカの正規録音などで聞かれるピッチの悪さなどは微塵もない。
独唱者にブリテンの初演時の歌手であるピアーズが加わっていて、初演から五年経ってのスイスでの演奏にかけるアンセルメの意気込みが伝わってくる。
考えてみれば、デッカにはすでにブリテン自身による神懸かりの名演があったのだ。あれがあったためにこの曲の録音は長く行われなかった(と私は思っている…)。あれに比べられては、他の指揮者はたまったモノじゃない。ケーゲルや少しおくれてラトルたちがその壁を乗り越え、ヒコックスやマズアなどの名演を私たちは持つに至った。
だが、この曲の演奏の歴史というより録音の歴史は、良すぎる最初の録音があったがために敬遠され続けたというのが私の感想である。でも、演奏されなかったわけではなく、こういう名演が残されていたのである。
マズアの力強い演奏や、ケーゲルの深い幻想の世界とはまた全く異なる名演を私は手に入れることができたのだと聞き終えた今、思っている。
名作が、たった一つの解釈しか示されないのでは、やはりつまらない。作品を作ったブリテンの意図を最大限尊重しながらも、更に様々な解釈、表現の可能性が示されることによって、名曲は更に成長していくのだと思う。
私はその過程の、ごく初期のものに出会えたのだと思った。そしてそれは素晴らしい体験だった。合唱の発声が時折硬くなったりするけれど、全体としては満足いくものだった。ソプラノはガリーナではないけれど、アンドレ・プレヴィンが録音したヴォーン=ウィリアムズの「海の交響曲」で名唱を聞かせたヘーザ-・ハーパーが素晴らしい歌唱を聞かせている。
マズアやヒコックスなどの第3世代?の演奏に慣れた耳には、表現がまだ硬いように感じるところもあるけれど、この演奏をまとめあげた努力、精進は大変なものであったことであろう。(そう簡単な曲でないから!)
作品が作者の手を離れ、成長をし始めたその瞬間にこれを聞く者は立ち会うことになる。極めて貴重な記録なのだ。素晴らしい音楽に明日は先日届いたボージョレーを開けよう!!もちろん世界平和を願って、乾杯!である。
by Schweizer_Musik | 2009-11-21 22:54 | CD試聴記
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