ベルンのミュンスターのオルガンを弾くバリーの名演集 *****(特薦)
c0042908_15473756.jpgクーン社が自ら出しているCDで、ここのクーン社のホームページから購入できるようだ。但しドイツ語のみ。私は先日、ベルンのミュンスターで購入したが、こちらの方が10フランほど高かった。何故?
ハインツ・バリーが弾いている。彼のCDは昔、CD初期の1980年代にDENONレーベルから出ていたので知っていた。そのCDはスイス東部、フラウエンフェルトの教会のメッツラー・オルガンにて録音されたものだった。先日このオルガンも見てきたというか、ミサの最中だったので、町と教会を見てきた。
ベルンの方は、尖塔の工事が終わり(何年やっていたのだろう・・・)、私にとって念願だったミュンスターの中を見てきた(何度もベルンに行きながら、時間などがうまく合わず、今回ようやく内部に入った。
プロテスタントの教会らしく、チューリッヒのグロス・ミュンスターとともに内部に装飾の何もない教会であるが、新しいオルガンが光り輝いていた。
ハインツ・バリーは1941年のベルンに生まれ、ベルンの音楽院で学んだスイスのオルガニストだ。パリでマリ=クレール・アランやウィーンのアントン・ハイラーのマスター・クラス、あるいはタリアヴィーニのマスター・マラスで学んだとあるが、1990年からベルンのミュンスターのオルガニストとして活躍しているオルガニストだ。
冒頭の聖アンのフーガで名高いバッハのBWV.552の華麗な演奏は、聞く者の心をわしづかみにする強靱さをもっている。オルガン・ミサの前後で演奏されることも多い作品ではあるが、こうしてこの曲だけ取り出して聞くのは久しぶりだ。バリーの演奏は深いタメが印象的な前奏曲と、立体的な構造が浮き彫りとしたスケールの大きなフーガとともになかなかの名演だ。私個人としては、ザンクト・ウルバン修道院付属教会のボッサール作のオルガンによるジークフリート・ヒルデンブランドの録音(TELDEC/0630-12322-20)と、若いライオネル・ロッグがバーゼル近郊のアーレスハイムの大聖堂のジルバーマン制作のオルガンを弾いたハルモニア・ムンディ盤の方が更に素晴らしいものと思う。リヒターは直裁であるが、全体のふくらみに不足し、迫力はあるもののやや刺激的すぎるし、ヴァルヒャの好々爺風の演奏ではスケールはあるが迫力がなく、私のこの作品に対するイメージにどうしても合わないのだ。両方ともそれなりに立派な演奏には違いないのだが・・・。
ヒルデンブランドの演奏とともに好んでいるもう一つの演奏は、ジュネーヴの大聖堂のオルガニストであったピエール・セゴンの演奏(GALLO/CD-246)である。1979年の録音であるが、深い呼吸で、とてつもないスケールでこの作品を演奏している。ここのオルガンは確かメッツラーのものだったと思うが、記憶違いかもしれない。
さてバリーの演奏はこれらの演奏に比べても全く聞き劣りしない。ややセゴンなどの名演に比べるとフレーズのタメが浅く、スケールが少し小さいと思わないこともないが、最新の録音の中ではチューリッヒのグロス・ミュンスターのオルガニストであるシャイデッガーの弾いたこの作品などとともに推奨できる名演である。特に前奏曲での対位法的な書法を、表情を細かく描き分けながらも全体像を見失わないことにより、非常によくまとまっていること、フーガでの声部の描き分けが見事であることは高く評価したい。
続くメンデルスゾーンのオルガン・ソナタは前任者のハインリッヒ・グルトナーの演奏(claves/CD 50-715)と聞き比べられて面白かった。この演奏は1977年の録音であるが、バリーのものは2000年。23年たったベルンの大聖堂でどういう音楽が鳴り響いたか興味をひく。
総じてバリーの方が華やかな音色を選んでいて聴き応えはある。グルトナーはどちらかというと地味な音色というか、ストレートであまり色々と混ぜていない音色が選ばれていて、素直で素朴な味わいである。ただ、私はバリーの華やかな演奏にも心惹かれるものの、グルトナーの演奏に実に味わい深いものを感じ、こちらの方を私のファースト・チョイスとしたい。2番手がバリー盤であろう。
ナクソスにステファン・タープの演奏でこの作品があるが、サラサラ演奏されていて、私には何が良いのかさっぱりだった。メンデルスゾーンはこの作品にヘ短調という悲劇的な調性を選んでいる。順次下降する主題は、まさしく受難の音楽だと私は思うのだが、まちがっているだろうか。
続くマルタンのパッサカリアは、私はいくつか聞いているが、この演奏にとどめを刺す。テンポも極めて妥当であるし、音楽の悲劇性を十分に表現して余すところがない。1944年、大戦中に書かれたこの作品は戦後、弦楽に編曲されてアンセルメなどの名演が残されていることは有名な話。しかし、私はこの作品はオルガンで聞くのが最も良いように思う。バリーは見事な演奏設計により、スケールの大きな名演を繰り広げている。
最後にリストのバッハの名による前奏曲とフーガ G.260 (1855/1870改訂)が演奏されている。この曲の最も直裁な演奏は1963年ミュンヘン、ヘラクレスザールで録音されたカール・リヒターの演奏だろう。ただあまりに厳しいテンポで一気に演奏されるそれは、私にはちょっと辛い。ロマンのふくらみというか、音楽に余裕がほしい気がする。カール・リヒターは天才だ。ただ、いつも聞くのは辛い。その点、サン=サーンスのオルガン全集をだしているブライヒャーのリスト・オルガン全集(オルガンはザンクトガレンのクーン社のオルガンが入ったリンセビューリ教会のものを使っている)によるもの(ARTE NOVA/74321 59199 2)や、チューリッヒのグロス・ミュンスターのオルガン奏者ルドルフ・シャイデッガーの録音(Die Orgel Im Grossmunster/TSO 98206)が良いと思っていた。
バリーはシャイデッガーやブライヒャーのロマンチックで豊かな演奏に、よりカール・リヒター風に強靱さを加えたもので、理想的なものとなっている。何しろスケールが大きい。テクニックについては全く問題なく、深さ、優しさ、広がり、そして強さ!が十分に表現されている。レジストレーションは専門家でない私が批評できるものではないが、大変適切であると思う。録音もこれが最もよく、バッハとメンデルスゾーン以外は私の知っている最高の演奏だと評価したい。バッハとメンデルスゾーンは****(推薦)であるが、マルタンの決定的名演とリストの理想的な演奏によって*****(特薦)としたい。
全く素晴らしいCDだ。ベルンのミュンスターに行った時に衝動買いした一枚だが、直感は当たっていた・・・。

Verlag Orgelbau Kuhn/OBK 2000
by Schweizer_Musik | 2005-03-29 15:48 | CD試聴記
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