ルネ・コロの歌うシューベルトの「冬の旅」
作曲者 : SCHUBERT, Franz Peter 1797-1828 オーストリア
曲名  : 歌曲集「冬の旅」D.911 (1827) (W.ミュラー詩)
演奏者 : ルネ・コロ(ten), オリヴァー・ボール(pf)
CD番号 : OEHMS/BVCO-37413(ナクソスならこちら)

かつてヘルデン・テノールとして一世風靡したルネ・コロによる久しぶりの新録音がこの「冬の旅」だった。個性的な新解釈としてことで気になっていたものだが、ようやく手に入れて聞いてみた。
想像通りリートにしては甲高い彼の声が少し煩わしい。また音程が全体にフラットでどうも落ち着かないのは困りものだ。少しずりあげるような癖も気になる。
しかし、盛りを過ぎた多少老いを感じる問題もあるテノール。そして共演のピアノもやや荒っぽく感じられ私の好みではないが、確かにこれは個性的である。怒りが充満し、急ぎ足で立ち去る「おやすみ」は違う曲かと思ったほどで、冷静になれるまで何度か聞き直した。彼は何から逃れようというのだろう。これは「風見の旗」「かじかみ」でも強烈な怒りが充溢して、冬なのに実にホット!である。
それは演奏時間からもわかる。全体が1時間ほどで歌われのだ。パドモアなどは1時間15分ほどで終わるのに対して15分も記録を更新してしまった。何しろ冒頭の「おやすみ」を3分45秒で歌いきるのだ。パドモアは6分13秒だからその速さが分かっていただけるだろう。
一般的なテンポなのは「鬼火」「あらしの朝」(これらは多分これ以外のテンポをとることは不可能だろう)などで、極端な1曲目ほどではないが、総じて速めのテンポで1時間5分の記録をたたき出した。
良い演奏というにはちょっと問題も多い。が、この解釈も成り立つと私は考える。速いテンポの演奏ではヘフリガーの演奏が私には落ち着いて良い。バリトンなどに広げれば、ゲルハルト・ヒュッシュが4分あまりで最も速い。ただルネ・コロのように粗くはないので足早に立ち去る主人公の心が突き刺さる。しかし若者は何に怒っているのだろうか。理不尽に自分を捨てた女にか?それとも捨てられた自分に対してか?怒りという感情は意外に薄っぺらいもので、それが若さの表現と言われればそうなのかも知れない。
だが「回想」の表現はイタリア・オペラのアリアのようで、どうも落ち着かない。どれもそうなのだけれど、特に目立って私は気になった。
コロは若者の歌だということを殊更に強調してみせる。そしてそれがまだ未成熟な薄っぺらなものに聞こえてくると、ちょっと違うと思ってしまう。
「冬の旅」は内省的でない…などという気は更々ないが、自分を振り返り明日無き身をさすらいの中に同化させて行くことで救いを見出すという「冬の旅」のストーリーがあるはず。したがって、なにがしかの?怒りとそれから逃れるものという設定では「幻の太陽」から「辻音楽師」の最後のシメが説得力がなくなってしまう。
気になって二度ほど聞いてみたが、やはりここには私の求める「冬の旅」は無かった。最後にピアノはちょっとテキトーすぎる。鳴っていれば良いのではないのだ!!ちょっと私も怒ってみた…(笑)
by Schweizer_Musik | 2010-01-09 07:53 | CD試聴記
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