ルクーのヴァイオリン・ソナタを厳本真理と野辺地瓜丸の演奏で
作曲者 : LEKEU, Guillaume 1870-1894 ベルギー
曲名  : ヴァイオリン・ソナタ ト長調 (1891)
演奏者 : 巌本眞理(vn), 野辺地勝久(pf)
CD番号 : 日本SP名盤復刻選集1

この後期ロマン派の申し子のような傑作は、グリュミオーやボベスコといったフランコ=ベルギー楽派のヴァイオリニストによる名演が残されているし、それ以外のヴァイオリニストたちをも惹きつけてやまないもののようで、数多くの録音が我が家にはある。
その中でもこの厳本真理と野辺地瓜丸(勝久)のコンビで戦後まもなく録音していたとはちょっとした驚きだった。
SP録音で針音が大きいので一般的にお薦めできるような代物ではないけれど、その演奏の美しさはそんな雑音の彼方からもよく聞くひとができる。
野辺地瓜丸先生は、私のピアノの師である沖本ひとみ先生の先生でもあった。野辺地先生(直接習ったわけでもないのに先生と呼ぶのはいかがかとも思うが、私の先生から「野辺地先生」と散々聞かされているので、私にはこちらの方が自然に感じられるのでこう書かせて頂く)はコルトーの薫陶を受けたということで、コルトーについてよく話されたと聞いているが、今日の水準で語るとテクニックはあまりない。だからテクニカルな作品の演奏になると野辺地先生の演奏を聞くのはちょっとつらい面は否めない。しかし、このルクーのソナタでピアノ・パートを弾く野辺地先生の演奏は、タッチに対する繊細極まるセンスを聞くことができる。おそらく野辺地先生の録音(そう多く聞いたわけではないが、先生からテープで何本か頂いてずいぶん聞いていた頃があった…)の中でもこれは最上のものと思われる。
録音がその美質の全てをとらえきっているわけではなく、冴えないところはあるが、やはりこのピアノ・パートの美しさを野辺地先生ほどのセンスで演奏した人はそうはいないのではと思う次第である。
ルクーのこの作品は大胆な転調を含む和声の連結の面白さで私には実に興味深い。そしてその楚々としたメロディーの美しさ!!和声の大胆さを全く感じさせない自然さ、のびやかさを保持するというのは、これほどの和声を使おうとすると至難の業なのだが、それを全く感じさせないルクーの抜群のセンス!!やはり彼は天才と呼ぶべき人の一人であった。
彼が24才という若さ!!で亡くならなければ、どれほどの名曲が残されたことか…。

写真はスイスの知られざる音楽の聖地クラランの風景。
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by Schweizer_Musik | 2010-03-25 06:47 | CD試聴記
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